パリに暮らした故に、新たに感じたリアルロンドン旅
先日、Paris(パリ)からLondres(ロンドン)に行ってきました。
シアトルで暮らしている20代からのお友達がロンドン経由でパリ入りしようとしたところ、パスポートとアメリカの永住カードを盗まれてしまい、パリ入りできず。結果として、私は彼女をお迎えすべくロンドン入りすることとなったのです。久しぶりのロンドン!20年ぶりのロンドン!! そうだけど古い街は20年では変わりません。人間は20年のうちに変わってしまうのにね(笑。
さて今回は、ロンドンへ小旅行した私目線のレポートをさせていただけたらと思います。
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パリからロンドンへは2時間ちょっと。パリの少し北側にある ”Gare du Nord(北駅)” から、新幹線のようなEUROSTARという高速列車に乗って、海の中のトンネルを通って国を渡ります。ちなみにEUROSTARは、イギリスだけでなく、ベルギー、ドイツ、オランダ、スイスへもロンドン経由で行ける便利な交通手段です。
ご存知の通りイギリスは2020年にE U離脱をしたので、シェンゲン協定からも抜けており、渡航には制限があります。制限とはどういうものかというと、例えばパリからイタリアやスペインなどEU加盟国であればパスポートなしで行き来できるんですが、イギリスはパスポートチェックが必要になり、通貨はユーロではなくポンドに。その他にも同様の高速列車TGVは、イタリアやドイツに犬の同行が可能なのに対して、EUROSTARでは犬を連れてイギリス入りすることはNGなのです。これは愛犬家には必須情報かな?
さて北駅からロンドンのセントパンクラス駅に到着して前述の友達と待ち合わせ。彼女は日本からNYへ渡り、今はシアトルでお仕事をする3人の子の母。仕事、家族、これからのことなど、女は話しだすと止まりません。
彼女は私が知る限り、最強の仕事女子。初めて会った時から、私の憧れの会社で才色兼備代表的な女子だったのです。ある日、彼女のバックの中に辞書みたいな本が入っていて、「それは何なのですか」と聞くと、NYで仕事したいからライセンスを取得するのだと。その後、難なくその資格を取得して、アッという間にNYで仕事をし始めて、結婚して子育てもバッチリこなすのですよね。そして更にある日、「NY飽きたし、今度はシアトルにする」と言い放って、大きな家を買って引っ越すわけです。シアトルで赤いコンバーチブルのマスタングに乗っている美しい日本人をみつけたら、多分間違いなく彼女です。
今回の女旅で何度も出てきたワードは、「一生で一人の男を愛すことの素晴らしさ」について。結局のところ、二人ともそれが出来ない種類の人間だということが今回の旅でわかりました(笑。
美術館は並ばずにチケットレスなのが素晴らしい。
パリにも無料の美術館はいくつかありますが、ルーブルやオルセーなど主要美術館は有料、かつチケットを持っていても並ぶことがあります。チケットなしで入ろうとすると窓口で1時間並ぶ気持ちで行かないとげんなりしてしまいますが、ロンドンの主要美術館である ”大英博物館”、“ヴィクトリア&アルバート博物館”、”テートモダン”、全て並ばずに無料で入れます。
美術館には「FREE FOR ALL」と書かれ、”すべての人が等しく文化に触れられるように” という想いでイギリスが国のお金で維持しているとのこと。運営のほか、保守や建物のメンテナンスにも莫大なお金がかかるでしょう。私的にはルーブルのように有料でもたくさん人が来るのですから、イギリスも有料化した方が良いのではないかと思いますが、イギリスという国のこのアートに対する考え方、凄いですね。
フィッシュアンドチップスが美味しい
フィッシュアンドチップス。日本でも食べることができる人気メニューですが、どうしてロンドンで食べるとこんなに美味しいのでしょう。パリにもありますが何か違う。今回、”Museum Tavern” という1750 年にできたパブで偶然食べたものが逸品でした。イギリスはどこで食べても美味しいのかな?
イギリスのジャガイモ、白身魚のハドック、衣と油、揚げる温度など、イギリスのこだわりがあるのでしょう。昔イギリス人はフランス人のことを「蛙を食べる人」ということで ”frogeater”、”froggy” と呼んでいました。つまり、「フランス人なんてカエル野郎だぜ!」と。
ちなみに、フランスではイギリスのことを “Grande Bretagne(大きいブルターニュ)“ と呼びます。そうそう、わかりやすい例のでいえば、イギリスは英語で ”United Kingdom of Great Britain” ですが、ブルターニュのことを ”Little Britain” と言ったりするそうです。ちょっと興味深いですよね。フランスのブルターニュとイギリスは船で渡れるほど近いから行き来していた歴史もあり、それぞれの国の立場での呼び名があります。
テムズ川は美しくない。
パリに暮らし始めてから、セーヌ川を生活空間として活用していたので、ロンドンのテムズ川の活用と街の関係についても期待していったのですが、残念なことにテムズ川では素敵な活用場面を見つけられませんでした。川岸に通路はなく、川面から高い塀が立ち、座って景色を楽しむというセーヌ川的な光景はなく、街の中心を川が流れる構図としてパリとロンドンの差を感じました。
そこで、なぜこんなに違うのか調べたところ、150年前のイギリスでの出来事で「Great Stink」、直訳すれば「大悪臭」というものが発生していたのだそうです。テムズ川の状態が生活汚水で最悪な状態になり、生活に支障をきたすばかりか、政治・経済にまで深刻なダメージをもたらすほどだったとか。臭くて夏に窓も開けられず、田舎に避難した人もいたそうです。
そんな出来事から、ロンドンの下水道処理システムは政治より大事ということで緊急整備されましたが、実は今でもその当時(150年前)のシステムを使っているそうで、人口が4分の1だった時の昔の処理能力なので、人口増加により処理できなくなると、下水がテムズ川に流れ込むそう。。ワイルドですねぇ。
2025年には現代式の大型下水道が完工して、未処理の下水がテムズ川にあふれるのを防げるようになるらしいのですが…まずは現段階において、こんな感じだったら川を生活から遠ざけたいのは当たり前ですよね(苦笑。
中心部の公園配置が心地良い。
ロンドンの街と公園の大きさの位置とバランスがとても良いなと思いました。少し歩くとちょうど良い大きさの公園があり、生活の憩いの場になっています。公園が多いなとは思っていましたが、なんとロンドンの面積の47%が公園なんだそう。
以前、パリの公園事情については少しお伝えしましたが(Vol.6)、パリの中心部の公園はルーブル横のチュイルリー、エッフェル塔下のシャンドマルス、リュクサンブールとありますが、その他は小さく分散しているので、大きな公園に行くには中心部から少し離れたブローニュかヴァンセイヌの森に行くことになります。NYのセントラルパークは、大きさは広いのですが、街の中心部かというとそうではなく、公園の上下左右に横断するのが大変で街が分断されていると思います。上側の人は下に行かない、北から南まで歩いて1時間かかりますからね。
その双方とも似つかずに大きすぎず、小さすぎず、規模よく配置されているのがロンドン。公園近くの住環境も良いですし、中心部でも住みやすい街づくりになっています。1人当たりの緑地面積について、ロンドンは45 ㎡、NYは29.3㎡ パリは14.5 ㎡。ロンドンがいかに緑にあふれているか感じられます。
一方、東京はどうでしょうか。23区の1人当たりの緑地面積は5.8㎡(2018年)なんだそう。東京中心部の一番大きな公園は天皇が住んでいらっしゃる ”皇居” という場で全てには入れませんし、明治神宮の杜は神社の施設、同じくらいの大きさの新宿御苑は入るのにお金がかかります。海外の公園事情から見ると不思議なのかもしれません。
レンガ造りの建物の重厚感とArts and Crafts
ロンドンとパリ、古い建物の街だから景観は同じ感じでしょと思っている方、いらっしゃいませんか?実は、全く違うんですよ。何が違うのかというと答えは明快。「煉瓦か石か」。
イギリスの建物は積上げる煉瓦造なので、フランスの石造とは外観が異なるのです。と言葉で書いてもわかりにくいと思いますが、建設界には「魔のイギリス積み」という煉瓦工法があり、とにかく煉瓦を大量に必要とするのと、途方にくれる積み上げ作業。建築の壁面の強度を出すために煉瓦の長手と小口だけの段を交互に積んでいくという手法があるのです(余計わからないか?汗)。ロンドンはどこもかしこも煉瓦造であるので、街並みは煉瓦の色が演出します。赤茶色と公園の緑が美しいのです。
内装はフランスと同様、歴史があります。イギリスとフランスの王室の室内装飾が似ているのは、お互いに技術を競っていたのです。この内装のディティールの違いはイギリスとフランスの違いはありますが、マニアックすぎるのでここでは触れません(またいつかお話ししたいっ!!)が、とにかくロンドンの建築物の美しさはパリジャンの憧れで、ナポレオンはロンドンのように美しい街を造れとオスマンさんに都市改造させたのが150年前のこととなります。
内装業界でイギリスといえば、1860年にアーサー・サンダーソンによって創設された英国王室御用達ブランドや、”Morris&Co(モリス商会)”や”Cole&Son(コール&サン)”、日本だとアパレルとして有名な”Laura Ashley(ローラアシュレイ)”などが有名ですが、みんな日本の工芸美術品に影響を受けていたのですよ。ちなみに、ヴィクトリア&アルバート美術館の ”Arts and Crafts Movement” の展示室にこんな説明がありました。
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Influence of Japan 1850-1900:
Japanese art and design had an enormous impact on Victorian Britain. Interest in Japan was first aroused in the 1850s when the country was forced to open its ports to American and European powers. Japanese objects were displayed at exhibitions and sold through a growing numbers of dealers and shops. By the 1870s there was a craze for all things Japanese. The art and design of Japan was very different from that being produced in Britain and provided a fresh and exciting source of inspiration. Its distinctive patterns and motifs were eagerly adopted. Some designers sought to understand the underlying principles of Japanese art. They admired its ‘simplicity, purity of form and strong feeling for nature’, qualities that were to have a great influence on the development of new styles in British art and design.
(意訳:日本の工芸はイギリスのクラフトからすると新鮮で刺激的でした。日本の特徴的なパターンやモチーフは1870年頃のイギリスのアートアンドクラフト時代のデザインに積極的に採用されました。彼らはその「シンプルさ、純粋な形、そして自然に対する強い感情」を賞賛し、イギリスから発生するアートアンドクラフト以降の芸術と新しいデザインスタイルの発展に大きな影響を与えることになりました。)
そうなのです。あの日本人が大好きなイギリスのテキスタイルデザイナー ”William Morris(ウイリアム モリス)” はまさにこの時期の人で、日本の工芸や模様に大きな影響を受けていました。これらは、それまでのイギリスの内装デザインとは違うデザインだったのでイギリスでも人気になり、現在でも世界中に150年ほど前の当時のデザインが流通しています。 日本人は欧米のラグジュアリーブランド大好きですよね。パリのブランドショップには日本人がたくさんいます。しかし、そろそろ日本の古き良き工芸や色柄、伝統技術に回帰してくれないかなと切望せずにはいられません。日本の文化というのは、あなたたちが大好きなブランドに大きく深い影響を与えてきた誇るべきものなのですから。
結局、人生と愛についてなんて限らず、今回お伝えした内装業なマニアック話をしながら旅したロンドン女旅。
「またいつか何処かで会おう。」
その時私達はどこにいるのかわからないけど、どこでも会おうと思ったら会えるから、私たちは会えると思う。そんな関係をおばあちゃんになるまで続けよう、と思ったロンドンの女旅でした。
さて、次回。「子供にとってのアート環境」というテーマを考えています。またお付き合いください。
ではまた。
au revoir. à bientôt!
夏水
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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。
1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。
【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。
空間デザイン会社 夏水組
吉祥寺店舗 Decor Interior Tokyo
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