フランス人の革命根性とお気軽な性格について

坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開店していました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ!今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

よく食べ、よく喋り、よく主張する。
しつこい。
プライドが高く、決して謝らない。

正しいのは常に自分自身だと信じているので、間違っていても全力で言い訳をする。
好き嫌いが多く、その日の気分で意見が180度変わり、愛想笑いというものは存在しない。
自分の話はまるで機関銃のように話すが、人の話はほとんど聞いていない。
どんな事でも OUI、NON があり、躊躇なく。
議論が大好きで、老若男女話し出したら夜中まで止まらない。    



そんな感じな人たちなので、大抵の場合「フランス人は超個人主義」と定義づけされます。確かに、他人がどう思ったとしても、自分がいいと思っていればそれで良く、誰もが自分のスタイルに絶対的な自信を持っています。

ですがその一方で、反対に自分と合わない価値観も否定せず尊重する、というのはあまり知られていないのではないでしょうか。根底にあるのは「人は人、自分は自分」という考え方で、他人の個性、自分との違いを認めてこそ ”自分の個性” があるということなのかもしれません。

我が夫はフランス人。良くも悪くもしつこいのは、やはりここに由縁されているのでしょうか。某日、あることで夫婦間の勘違いが生じたのですが、その時に「あなたが間違ったのだから謝罪してほしい」と私は言ったんです。けれどもその時の彼の回答は「そうなる運命だった」ですって!

そう言って間違いだったことに触れないようにするのです。(私もしつこい性格ですので)結果、ごめんなさいと最後は言ってくれましたが、その時ふと思ったのは、夫は日本に20年暮らしていたからだったのかもしれないな、と。生粋のフランス人だったらこうはいかなかったでしょう。

こんなフランス人の性格をうまく表現している言葉があります。夫が発言したように「そうなる運命だった」「それが人生だからしょうがない」という感じで、”C’est la vie” とフランス人はよく言うのです。”C’est la vie という魔法の言葉があれば、何でも平和に終わる様子です。

「国民性とは、その国の歴史や風土に起因し、国民共通にみられると考えられる気質である。」

フランスの国民生は「よく食べ、よく喋り、よく主張する」。そして最後は ”C’est la vie” 。それが全てなのです。




よく食べ、よく喋り、よく主張する。


フランス人は世界で最も食事時間が長いそうです。

18時からアペロが始まって、最後のデザートとカフェが夜中24時というのは普通で、「今日は帰るねー!」と誰かが言い出してやっと終わったかと思ったら、それから1時間はゆうにおしゃべりが続きます。そう、「帰る+1時間」が基本です。

もちろん時間通りには始まりません。ほとんどが時間に間に合うように準備しないし、呼んだ方も集合時間になっても準備が終わってないからちょうど良いくらい(笑。
”集合時間+1時間後到着” 。
なぜ時間通りに到着しないのか聞いてみたところ、準備する人への配慮で「最後にお洋服を着替えてルージュを塗る時間を与えているのよ」と。さすがフランス人です!!

ここで重要なのは、食事は空腹を満たすためではなく、美味しいものを食べながら家族や仲間とおしゃべりする時間であるというのが、フランスの食事定義ということです。そういう意味において、フランス人は”人生を楽しみたい”という欲求にとても素直な国民だと思います。

しかも食事に長い時間をかけて食べているというのに話が尽きないのです。政治の話は必須、そのあと家族の話、バカンスの話、そして最後はお酒も進んで恋愛の話。白髪のおばあちゃんが新しくできた彼氏の話をするのは、稀でなく日常。最初の方は冗談でしょ、と驚きましたが、最近はこの人がおばあちゃんになっても素敵なのは愛があるからなのねと、憧れの眼差しへと変化した自分に気づきました。もちろん「恋をする」は「faire l’amour(直訳:愛を作る)」ですから、おばあちゃんになったとしも必要ってことですよね。

話し好き議論好きフランス人の話に戻ります。 我が子はフランスの学校に通い出して1年経過しましたが、今、彼らは食事中に大人の話を聞いて話したいと思った時は、手を挙げて待つようになりました。時折、公共の場で大人が発言したい時も同様ですが、フランス人は発言したくてたまらないのです。とにかく何か言いたい!日本人の私は、端っこのほうで発言しなくて良いように、頭を縦に振っての同意表明で発言しなくても議論に参加していると思っているですが、同意の場合も発言すべきで、発言しない人は、その場にいないのと同様とみなされるのです。これは、フランスの教育のせいだと思いますが、自分の考えを幼少の頃から発言すること、その権利と大切さを教えられていると思います。

アペロの始まり


哲学とフランス人


フランスでは高校生の時にバカロレアという卒業するための試験があるのですが、その中に哲学の試験があります。ナポレオン時代から続いているそうなのですが、哲学を深く学ぶことで人は自由に思考でき、市民社会の基盤となるのだとここでは考えられているそうです。このナポレオン時代から続く徹底的な思考訓練と発言の教育が、フランス人の議論好きに繋がっているのではないでしょうか。

そして、これら議論好きはストライキにも繋がります。フランスと言えば、もはや ”デモとストライキ” というイメージですよね。先日もフランスのストライキが日本のテレビでニュースになっていたようで、日本の友人から大丈夫?と連絡もらいましたが、そんなことは日常茶飯事で、こちら側は「どのストライキのこと?」というのが正直なところ。

もちろん、電車やバスが動かなかったり、娘の学校の先生がストライキで授業をお休みにしたり、ごみ処理工場が動かなくて街中がゴミだらけになったりしますが、フランスに住んでいる人は毅然と日常生活しているのですよね。

実際、フランスでストライキのために働かない日数(労働者1,000人あたり)は年間114日で、E Uで断トツのトップだそうです。ストライキが憲法上の権利である以上仕方のないことだし、権利を主張し自分の意見を言うことが当たり前なフランスでは、ストライキに理解があると思います。ストライキで電車が動かなくてクレーム言ったって誰も聞いてくれませんしね(これは勘弁しもらいたい、という日本人意識はさておき…)。




しつこく諦めない根性


さて。なぜフランス人はこんなにもしつこくて、プライドが高くて、言いたいこと言い放題の気分屋さんなのでしょうか。まずは一番近しいフランス人の夫に聞いてみました。「うーん、ラテン系だからでしょ」で口火を切った後はあれとこれと、またそれからこれも…と話が止まらなくなってきたので、理解しましたと切り上げたのは実は今朝のことです(苦笑。

フランス人の夫

だけどこういうやりとりでわかってきたのは、フランス人がこうなのは、フランス革命の経験が国民性に根付いているからなのです。

1789年7月14日から1799年にフランスの市民が起こした「市民革命」。市民達は財政破綻の原因は王族の浪費で、ベルサイユ宮殿の建設やルイ16世の王妃マリーアントワネットの浪費だと信じ込んでいた為に王政への不満が爆発し、連年の日照不足で農作物不作と飢饉が発生、物価は上がり失業者も増大していたことも相まって、王族は不公平さに怒れる市民が起こしたフランス革命によって倒されます。

そこで得たのが、「人権」と 「Liberté, Égalité, Fraternité」(自由・平等・博愛)の4つです。フランスという国は「フランス人」という人種がいるわけではなく、宗教でまとめられる国でもありません。国民の共通意識はこの4つの価値観です。

フランスの国歌「La Marseillaise(https://youtu.be/iyvfq5rejZU)」を知っている人は多いと思います。街を歩いていると夜のバーで若者たちが大声で歌っていたり、なんと今では息子がご機嫌に家で口ずさむのですが、学校のお友達の影響もあるでしょう。日本の夜のバーで国歌の ”君が代” を歌っていたら、ちょっと変な目で見られがちですからね、その違いは大きいです。

国歌の歌詞でくりかえされるフレーズがあります。



Aux armes, citoyens ! Formez vos bataillons ! Marchons ! marchons !
Qu’un sang impur abreuve nos sillons !

武器を取れ我が市民らよ 隊列を整えろ 進め!進め!
敵の不浄なる血がわれらの畑の畝を満たすまで!


怖く残酷ですが、要は自由のために皆で最後まで立ち向かえば何にでも勝ち満たされる、という歌なのです。長いバカンスに行くために大渋滞でもパリからこぞって脱出するパリジャンたちをみていると、そんな感じがします。長い議論も積極的なストライキ参加も、フランス革命で権利を勝ち取った市民だからこそですね。

さて、次回。「パリからロンドンへの旅」というテーマを考えています。またお付き合いください

では次回。



au revoir. à bientôt!

夏水


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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。

空間デザイン会社 夏水組
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