坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開店してました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ!今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

パリの素晴らしい家のこと。「最上階屋根裏部屋」


新生活スタートとなった家は、お店のあるサン・ジェルマン・デプレから歩いて10分弱のサンミッシェルの近く、カルチェラタンといわれる地域にあります。子供の学校通いの治安のことや私の家との行き来を考慮して、お店から徒歩30分圏内で探していた家探しではありますが、仕事場からもこんなに近い場所で見つかったのは本当にラッキーだったと思います。

裏口(笑)で得たこの家ですが、なんと1760年築なんですよ! 冷静に考えると日本では葛飾北斎が生まれた年です。さらに言えば築260年! ですがパリ中心部はほとんどの建物が木造ではなく石造。改築に改築を重ねて今の姿になっているんです。これはまた、日本とは大きく違うところかもしれませんね。

我が家があるのはエレベーターなしの最上階の5階。最上階なので天井の一番高いところは5メートル、開放感があります。家の中には秘密の階段があって、そこから屋根に上がるとエッフェル塔からパンテオンまで一望できるというおまけつき。設備もリノベーション後だからキッチンも古くないし、お風呂にはバスタブがついているし、トイレも別、天窓もたくさんあって明るく風通しも良し。あれ、もしかしたらすごく “当たり” の物件だったのかも?笑

5階にある我が家からの眺望

築260年! 家の中庭

実際の住み心地としては、壁が厚く断熱されているので外気温の影響は少なく快適です。ご存知の方も多いかもしれませんが、7月のフランスでは “la canicule(ラ カニキュル=猛暑)” が続き、パリジェンヌたちはパリから避難すると聞いていた。エアコンがない生活をしたことがない私としてはそんなパリの夏は恐ろしく、日本からエアコンを届けてもらうか、もしくはフランス式のエアコンを購入するかと心配していたのです。結果としては、全然問題ありませんでした。実は日本の方がよっぽど暑いと感じるんです。日本の耐えられない暑さの原因は、結局湿度のせいなのだということをこの時に認識しました。5階までの階段も、築260年の家にはエレベーターが設置できるはずがなく、ないものはない。健康とお尻アップに良いのだと納得しています。エレベーターもエアコンもウォシュレットも実のところは不要だった。人生の新しい発見です(笑。

子供達も「日本の家より気に入っている」といってくれるし、夫は家族がパリの家に大満足なのでドヤ顔しています。日本で住んでいた吉祥寺の家よりは少し狭くなりましたが、家賃は大きく変わりません。契約更新費用は発生しないし、夏のエアコン代なし。冬は少しの暖房で家は暖かいので、日本より電気代は安くなりました。ここはパリの中心部、日本でいうと銀座のような場所なので、日本にいた時よりも総合的に見ると安いんじゃないかな。徒歩2分でセーヌ川、10分でリュクサンブール公園。ブローニュの森には電車で30分。なんて贅沢な生活なんでしょう。ラッキーでごめんなさい!

最上階で天窓があり、日当たり風通し良く快適な室内。
パリの階段。登るのは大変だけど美しいから大丈夫。

パリの節約生活。生活の善し悪し、円安と物価高。 

「住まう場所」について語ってきましたが、ちょっとだけリアルな生活について触れてみようかしら。移住したタイミングは某ウクライナ問題に起因する円安もあって、ユーロは150円弱。日本の物価の1.5倍(売ってるものが違うんですが)なので、なにせ全てが高額です。

それでも移住後少し落ち着いてくると、日用品や食材はスーパーとネットを使って効率的に工夫して購入できるようになってきました。醤油や味噌、海苔などの日本の食材が恋しい時は、ご近所にお住まいの日本人がおすすめの食材店を教えてくれますし、コスパの良いレストランは学校のママ友たちがおすすめしてくれます。日本でも日々の必需品はネット注文で家まで配達が日常でしたが、パリの家は5階なので家のドアまで配達してくれるかどうかは大切なポイント。MONOPRIXというパリで一番大きなスーパーは、ネットで注文すると翌日無料で配達してくれるんですよね、もちろん5階の家のドアまで。これすごく重要です。

美味しいお魚と野菜は近所のマルシェに買いに行きます。土日どちらかの午前中、パリのマルシェへ家族で出かけて美味しいものを見つけて料理するのが週末の楽しみです。日本にはない海鮮と野菜、果物が色鮮やかに並んでいるところから選び、購入して料理を楽しみます。季節ごとに変化する食材たち。これもこちらにきてから改めて意識するようになったことです。

もちろん円安なので物価は日本よりやや高めですが、工夫をすれば日本とパリの食材費に大きな差はありません。大きく差が出るのは外食費。「疲れたし、外食しちゃおう!」とレストランに家族で入ると、楽しんだ後の会計に驚きます。普通のレストランで家族4人好きなものを普通に食べて150ユーロ、少し良いレストランに入ると300ユーロ! 日本の外食産業が安すぎるのでしょうか? 400円の牛丼やうどんはないし、ランチも1000円では見つかりません。今更ながら、日本の外食産業の努力に頭が下がる思いです。

一方、パリといえばのマルシェは、野菜や果物は安く買えて、本当に美味しいことも実体験としての発見でした。お魚も季節を選べば立派な海老や鱈、牡蠣をたらふく食べることができます。スーパーでもマルシェでも、賞味期限の近い食材を「廃棄物ゼロの視点(Zéro Déchet)」でまとめて安く買えたりするんですが、先日私は3キロのホワイトアスパラとアーティチョーク、メロンを全部で3ユーロで手に入れましたしね。ネットで有名なパン屋さんの Zéro Déchet で予約すると、バケットにクロワッサン、ケーキなど20ユーロ相当が5ユーロで買えたりします。素晴らしい! なので、今のところ移住1年目の我が家の食卓は大満足ということでしょか。時々「しゃぶしゃぶが食べたい」と寝言のように6歳の次男が言うくらいしか問題はありません。ええと、息子よ…日本で楽しみましょうね(笑。

こうして始まった私の一年目のパリ生活。想定外のことも多いけれど、パリでのさまざまな新しい気づきもたくさん。さて次回は、パリでの子育てと仕事のことについて書いてみたいと思っています。
au revoir. à bientôt!

夏水


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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。