太陽と緑の楽しみ方
太陽燦々のご機嫌な7月、フランスでは待ちに待ったVACANCE到来です。
朝、カラッと清々しいセーヌ川沿いを散歩しながら出勤。ランチはリュクサンブール公園のベンチでお友達と一緒にサンドイッチ。仕事帰りはドフィーヌ広場にあるカフェでアペロ。休日は家族でバスに乗って20分のヴァンセイヌの森へピクニック。これ、パリに引っ越してきて知った「太陽と緑が豊かなパリ時間」の過ごし方です。
先住のパリジェンヌに教えてもらった太陽と緑の豊かな時間の過ごし方は、日本とはちょっと違う気がします。太陽と緑の組み合わせは、パリの街の癒しであり、パリジェンヌたちの生活の一部になっているのです。
今回は、衣食住の生活文化として “外のリビング” やパリ的太陽と緑の楽しみ方について、お話しようと思います。
公園は “外の癒しリビング”
パリジェンヌたちのお昼休みは2時間。街中の公園は、本とランチの紙袋を持った人たちでいっぱいになります。紙袋の中身は、カリカリのバケットにモッツァレラとトマトでバジルサンド。ランチタイムに冷えた白ワインは日常です。レストランのテラス席で冷えた白ワインを飲むことに罪悪感はないし、文句を言う上司もいません。これが日本だったら…と思うこともしばしばです。
ランチタイムの日光浴だけでなく、仕事が終わった後の夕涼みにセーヌ川岸でアペロをするために集まってくる人たちの姿もパリの風物詩です。彼らはビールやワイン、チーズやオリーブなど、軽いおつまみを持って19時にはセーヌ川岸に、映画館の椅子に座る人の列のように綺麗に並んでたたずんでいます。ここは、夕焼けを楽しめる21時頃までパリ中心部の人気スポット。心地よい太陽と樹木の木陰に吹く風、そして橋越しに見える夕焼け。愛する人と過ごす素晴らしい場所なのです。
東京とパリ – 公園計画の違い-
東京にいた頃、吉祥寺の井の頭公園の近くに住んでいたこともあり、住まいと公園の身近さは生活のとても大切な要素でした。歩いて行ける公園、ピクニックできる広場、木陰で休めるベンチ、自転車で行ける森林。正直なところパリに引っ越すのだから、これらのことは諦めないといけないと思っていたのですが、実際には想像と異なっていて、パリでは東京以上に、森も公園もピクニックも木陰ベンチも、生活のもっと身近なところにありました。
家から公園までの距離はとても大切。季節も良くなってきた4月頃から毎週末は、家族で公園探索に出かけました。 パリには東西に大きな森があり、東がヴァンセンヌの森、西がブローニュの森です。どちらもパリの中心から、電車やバスを使うとドアtoドアで30分、約4~5kmのところにあります。パリの大きさは、東京23区の6分の1と意外と小さいですから、パリの中心から東西の森へも近い距離にあります。
更にお伝えすると、このパリの森は、代々木公園と井の頭公園を合わせた大きさの緑地で、なかなか広いのです。このヴァンセンヌの森(995 ha)とブローニュの森(846 ha)を含めると、パリ市民の公園面積は1人当たり14.5 ㎡ 。東京都民だと一人当たりの都市公園等の公園面積は5.76 ㎡(令和4年)とのことですから、ほぼ2.5倍といってもいいかもしれませんね。
東京とパリ − ピクニックの歴史 −
ところで、「ピクニック」はもともと「pique-nique」で、フランス語です。「摘まむ」という意味の「piquer」と、「つまらないもの」という意味の「nique」が組み合ってできた言葉です(この場合の「つまらないもの」は、“ちょっとした食べ物” というニュアンス)。故に、はじめは「それぞれが軽食を持ち寄って食べるパーティー」を意味していたものの、次第に「野山などの自然豊かな場所に出かけて、そこで簡単な食事をする」という意味に変化したといわれています。
ブロカント(中古品を売る店)に行くと、籠バックの中に食器・カトラリーのセットがきれいに詰まっているものを見つけられます。これはかつて、フランス貴族が狩猟遊びのためにお城から外に出たときの外食用として使っていたもので、小さいものだけどきっと豪華なピクニックをしていたのでしょうね。ピクニックは贅沢に外で食事を楽しむ貴族の娯楽だったということも、これらから想像できて興味深いです。
パリ中心部の家は、超お金持ち以外、人をたくさん呼んで食事ができるリビングがないのが普通で、家族が何組か集まるときには公園でピクニック、という流れになるのもこちらならではかも。各家族が料理や飲み物を持参してきますが、フォークやお皿、コップまで持参する家族が多いのです。だから缶ビールはそのまま缶から飲みません。ちゃんとコップに注いでいただきます。もちろんワインもワイングラスも家から持ってくるケースが多いです。これ、実は最初に見たときは驚きました、”そこまでする⁈” と(笑。そうなのです。何に関してもですが、フランスは「エコであること=美しいこと」が大切なのです。
日本のピクニックといえば、春のお花見が近しいでしょうか。缶ビールとプラカップが大量に並んでいるブルーシート、これはフランス人がみたら間違いなく ”美しくない” と言うでしょう。フランスにおいては、ピクニックは “貴族の外食” ですから ”エレガントに美しく” 。酔っ払って馬鹿騒ぎしたりはしないのです。
公園の快適度 – 湿度と治安 –
夏のパリの太陽は東京より日差しが強いこともあり、お日様が出ていると暑いものの、木陰に入るとからりと涼しい。これは湿度の差からくる快適度の違いですね。夏の日本の公園は、湿度のせいもあって木陰でも暑苦しい。日本の夏を快適に過ごせないのは、この湿度の違いなのだと思います。さらにいえば、パリの夏の夜は21時くらいまで明るいので、遊ぶ時間がたくさんあります。これは季節の恵みとも思えるのです。
もう一つ、大切な違いがあります。それは芝の “ふさふさ度” です。ピクニックの快適度は、この “ふさふさ度” が最重要ポイント。緑のカーペットが地面を覆うので、空気が乾燥していても土埃がたたないのです。日本の芝生は冬には枯れてチクチクしますが、フランスは西洋芝で夏も冬も、ふさふさ。土埃で砂だらけの日本のピクニックを経験していたので、このふさふさの緑のカーペットの重要さを、こちらにきた時に実感しました。日本でも西洋芝にすれば良いのにと調べたところ、西洋芝は湿度の高い日本では生育が難しいそう。やはりポイントは湿度なのですね(これは日本で体験できませんので、フランスの芝のふさふさ、是非体験に来てくださいませ!)。
あとは街の治安が公園の人気に関係していることもあるでしょうか。例えば、19区ビュットシュモン公園は安全なことで人気ですが、その横のベルヴィル公園は危ない空気が漂っています。同じ19区の隣の公園なのに、人気の差があるのは不思議ですね。1860年頃のオスマンの都市計画の中で、高級住宅に囲まれた公園は今も治安が保たれているのです。またパリ西側のブローニュの森は、池周辺までは良いのですが、少し裏に入ると風俗のお姉さんが客引きをしているし、テント住まいの人もいらっしゃいます。整備された美しい公園ゾーンと雑木林ゾーン、パリの光と影。パリは知らないと、途端に危ない場所に入るので注意が必要です。
あ、ちょっとだけおまけ情報ですが、これら大きな森でトイレに行きたくなったら30分は歩かないといけません。美しい景観ですが、野で用をたす人間様もいますので、雑木林の散歩は足元にご注意を。
東京とパリ – 日焼け –
最後に、太陽といったら日焼け。日本では避けるべきとされますが、ここにも大きな違いがあります。暗く寒かった冬の鬱憤を晴らすように、お日様を追いかけてパリジェンヌたちは日焼けをします。真っ白な肌はヴァカンスを楽しんでいない証拠になるらしく、日本のように日焼けシミ対策なんてどこへやら。こんがり焼けた肌はステータスだそうで、バカンスが終わったら真っ黒に日焼けしたマダムたちが、夏の思い出をカフェで語り合っています。
そしてパリジェンヌたちは無駄毛処理もしない人が多いのですが、なぜしないのかと聞いたところ、「太陽から毛が守ってくれるのよ」との認識。脱毛文化の日本との大きな差を感じました。無駄毛ではなく、重要な役割があるのです。つまり「シミも毛も、日焼けしてれば目立たないでしょう!」とマダムが言っていて、なるほどと感じた2度目のパリの夏です。
さて、次回のテーマ。色々お伝えしたいことがあるのですが、7月ということもありますし、「フランス人の革命根性とお気軽な性格」を実感する昨今なので、そこらへんにについて触れてみようかと思っています。
ではまた次回。
au revoir. à bientôt!
夏水
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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。
1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。
【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。
空間デザイン会社 夏水組
吉祥寺店舗 Decor Interior Tokyo
ネットショップ MATERIAL
パリ店舗 BOLANDO