フェイ・トゥーグッド 《ローリーポーリー 》 2018年 ドリアデ PHOTO: "UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #173)", 2022 © GOTTINGHAM IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM

暮らしを取り巻く「デザイン」と正面から向き合う展覧会「The Original」が、六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されている。世の中に深く影響を与えるデザインをオリジナルと定義し、選定された家具、照明器具、プロダクト、ファブリック、玩具など、150点にのぼるプロダクトを一望する意欲的なものだ。本展の企画協力者が語る。

久々の大規模なプロダクトデザイン展である。「The Original」ディレクターには、デザインジャーナリストの土田貴宏さんを迎えた。
土田さんは国内外を問わず、展示会、展覧会、デザインに関係するあらゆる場所に出没し、丁寧に取材執筆を行う。彼の記憶のなかにはこれまでの知見がアーカイブされ、古今東西のデザインがひしめいているに違いない。過去を踏まえ、時代の新たなクオリティを見出し、現在進行形のページを書き加えていこうという情熱の深さに並々ならないものを感じている。

本展は、プロダクトデザイナー、深澤直人さんの原案をもとにディレクターが共に発展させた。展示作品の選定に際しては、筆者も関わらせていただくことになり3名で行っている。
そもそも、デザインのオリジナルってなに?と思われる方も多いのではないだろうか。大切なポイントなので、この原案について少しご説明できればと思う。

左から、デザインジャーナリスト 土田貴宏さん、プロダクトデザイナー 深澤直人さん、筆者

まず2002年に遡る。この年、日本デザインコミッティーの深澤直人、原研哉、佐藤卓、各氏が企画・構成を手がけた「デザインの原形」展が開催された。展示品の選定を深澤さんが担い、原形とオリジナリティの関係についてこんな風に記している。
「(…)原形とはオリジナリティ(独創的なもの)とも少し違う。オリジナリティは独自であることが目的で、それは作者の個性や主観的意思の表れである。原形は作者が探した必然である(…)」(引用:『OPTIMUM デザインの原形』2014 (初版 2002) ADP)。

「デザインの原形」は一つの点となる展示で、その後に深澤さんがジャスパー・モリソン氏と共に、優れて正しくふつうであるデザインを私たちに教えてくれた「スーパーノーマル展」(2006, AXIS Gallery)などが、線でつながっていく。
そして約20年を隔てた今回の展覧会タイトルは、「The」を冠した「The Original」。デザインの独創性へと迫る新たな点が置かれたのだ。土田さんはオリジナルな「もの」を点にたとえる。
「その点に十分な影響力があれば、点は線へ、さらに面へと展開するでしょう。つまり後に続くいくつものデザインが、原点に対するバリエーションとして長期にわたり生まれていきます」
この関係は、音楽におけるテーマとヴァリエーションや、原曲とカヴァーのようなもの、と表現すると分かりやすいと思っている。デザインには、原形、またはオリジナル、ヴァリエーション、リ・デザインが存在している(やっかいなことに、ここに入らない「コピー」の数が圧倒的に多いのだけれど)。それを丁寧に見分けていく必要がある。

選定の基準をまとめておきたい。
土田:独創性、根源的な魅力、純粋さと大胆さ、力強さを備えるもの
深澤:「無頓着」な時代に対抗できるデザイン、見てワクワクするもの
田代:その登場によって、周囲になんらかの変化をもたらした勇気あるプロジェクト

やがて、「これはオリジナルではないか?」というプロダクトが300以上集まった。3人で重複する部分もあり、また異なる選択もあり、だからおもしろい。土田さんはポーカーフェイスで膨大な作品リストを一点ごと的確に説明していく。たまに深澤さんが、プロダクトを見て「すごいね、悔しい!」と軽やかに言い放つ。これはデザイナーとして嫉妬を感じるという最上級の賛辞である。しかもその判断が瞬時で迷いがないのがすごい。筆者は2人のリストへ差し入れを持っていった感じだ。
選定会は深澤さんのオフィスで3回にわたって行われ、最終的に約150点に絞り込んだ。

展覧会の導入では、ピエロ・リッソーニによるソファとジノ・サルファッティのシーリングライトが来場者を出迎える。

スタイリングで魅せる空間の一つは「主張と調和」がテーマ。時代を交え、イタリアと関係の深い作品が集まっている。

家具とともに照明器具のスタイリングもみどころ。写真左は佐々文夫の照明「ランパス」シリーズ。
以上3点すべて 撮影:木奥恵三


いよいよ館内へ。
展示のルートは、導入から、室内環境で見せる、単体で見せる、プロダクトを体験する、という流れで約150点を見せる。ものは環境と共に感じてもらうのが本望だが、単体展示の空間で、インテリアデザイナー、吉田裕美佳さん(FLOOAT, Inc.)が考えた、モデュール式の大きな壁面を配置し写真とキャプションを組み入れた会場構成のプランは見せ場になっている。写真家、ゴッティンガムさんが、手持ちカメラで即興的に捉えた家具やプロダクトの姿は、オリジナルの力と共振する迫力がある。
展覧会作りの楽しさの一つはこうしたチームワークにある。

ものを単体で見せるギャラリー空間。会場構成:吉田裕美佳(FLOOAT, Inc.)、写真:ゴッティンガム、グラフィックデザイン:飯田将平 (ido)
撮影:木奥恵三

ウォーレン・プラットナー 《プラットナー コーヒーテーブル 》 1966年 ノル PHOTO: “UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #152)”, 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM

単体展示の空間で、時は19世紀からゆるやかに現代へと流れる。
始まりは1859年に生まれた曲木のサイドチェア、トーネットの《No. 14》。曲木技術による美しいデザインと量産体制、6つの最小パーツによる構成(メーカーによってパーツ数が異なるが)、ノックダウン式による輸送コストの削減…、あらゆる意味で革新を起こした椅子は、現在まで生産が途切れたことのない真のオリジナルかつ原形だ。ここから数えきれないバリエーションが派生していった。
このころ、日本は江戸時代で、椅子に腰掛けていた人口はほぼなかったことを、ふと想像したりもする。
20世紀初頭の鋼管家具のパイオニアは、100年近い時の流れをまったく感じさせず、展示が時系列であることを忘れてしまう。
戦争による技術開発はデザインと無関係でない、というより密接な関係がある。

チャールズ&レイ・イームズらが負傷兵士の脚の添え木「レッグスプリント」(右)のために開発した成型合板は、戦後デザインに大きく貢献。中央の椅子は、潜水艦用の軽量椅子として考えられたのが原点。
撮影:木奥恵三

戦争によって多くのものを失った世界は、大量生産へと邁進し粗悪なもので溢れ始めるが、そのなかで優れたプロダクトデザインの名作も誕生する。会場でイタリアのデザイナーによるオリジナルが集まるのがこの時代の展示だ。

壁面のビジュアルは、イタリアデザインの伝説的なブランド「ダネーゼ・ミラノ」による、ブルーノ・ムナーリとエンツォ・マーリのプロダクト
撮影:木奥恵三

深澤さんの原案は、ミラノのデザインミュージアムで出会った2つのイタリアのプロダクトから受けた感動に端を発しているという。そのプロダクトが、ルイジ・カッチャ・ドミニオーニのフロアランプ「インブート」、そしてフランコ・アルビーニのアームチェア「ルイーザ」である。
日本で彼らの名は、近年、プロダクト作品が復刻されるまでほとんど知られていなかったが、ともに20世紀イタリアの建築・デザインを牽引した巨匠である。
カッチャ・ドミニオーニ(1913 – 2016)は、日本でも知名度の高いアキッレ・カスティリオーニの兄たちの世代にあたり、実際にアキッレの二人の兄、リヴィオ、ピエル・ジャコモと協働した。
フランコ・アルビーニ(1905 – 1977)はカッチャ・ドミニオーニのさらに上の世代の建築家で、ミラネーゼにとっては地下鉄駅のデザイナーでもある。イタリアでは、建築家が設計、インテリア、家具まで総合的に手がけることが一般的だった時代があり、細分化が進んだのはデザイン教育が確立されて以降のことだ。

フランコ・アルビニのアームチェア《ルイーザ》、ルイジ・カッチャ・ドミニオーニによるフロアランプ《インブート》は、深澤直人が本展の企画原案を考えるきっかけとなった2点。
撮影:木奥恵三

フランコ・アルビニ 《ルイーザ 》 1955/2008年 カッシーナ PHOTO: “UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #285)”, 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM

世界のプロダクトデザインを熟知する深澤さんを今も「感動」させるものがある。
一方、若い世代はものへの好奇心や感銘を毎日感じているんだろうか?
「最近の社会がデザインに無頓着になった」と深澤さんは考えている。

思い起こせば時代は大きくシフトした。戦争の勃発、経済的貧困、自然災害や気候変動による危機。私たちの世界の捉え方は変化し、産業革命以降、止まることのなかった大量生産体制の転換がようやく行われようとしている。それは必然の帰結だ。
しかし同時に大切なことを思い出そう。「もっとオリジナルのすばらしさを知ろう、一緒に感動を分かち合おう」。オリジナルには世界を良い方向へ進める力があるはずだ。

土田さんは、「デザイン=問題解決という図式以外の要素も盛り込みたかった」とも語っている。デザインが喚起するエモーショナルな部分なのかもしれない。彼のこの視点がよく理解できるのが、おもに展示の終盤だ。本展のメインビジュアルにもなったふくよかなアームチェア《ローリーポーリー》、メタリックな光を放つベッドリネンなど、初めて見たとき筆者は、ほー!と驚き、そこに土田さんの「ジ・オリジナル」も感じた。

現代のデザインもよく知るディレクター、土田貴宏が、21世紀のオリジナルと考える作品が並ぶ。
2点共に 撮影:木奥恵三

ベント・ソーンフォルス、ニナ・ノーグレン 《ヌードメタリック(ピローケース)》 2016年 マグニバーグ PHOTO: “UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #1206)”, 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHA

展覧会の締めくくりにディレクターが置いたのは、深澤さんデザインの椅子《Tako》。
はじまりに置いた革新的な木の椅子、トーネット《No. 14》と最新の木工の椅子を呼応させたかったという。

深澤直人 《Takoアームチェア 》 2020年 マルニ木工 PHOTO: “UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #963)”, 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM

「The Original」は展覧会そのものが「新たな点」であると書いたのは、ここからもう一つのデザイン展が生まれ、もう一つと、線でつながれば、いつか日本にデザインミュージアムという空間が実現する可能性があると感じたからだ。実はその点とは、三宅一生さんにより創立された21_21 DESIGN SIGHTそのものなのである。

まるでこの場所のためにデザインされたような、ウィリー・グールの《スイスパール・ループチェア》。土田はこれを見て、安藤忠雄設計の本館そのものを「ジ・オリジナル」リストに加えた。

体験コーナーではテーブル、椅子、ドアハンドルに触れることが可能。「ジ・オリジナル」のための書き下ろし歴史記述やキャプションなどのテキストが本館のみの公開となっていることも、来館をお勧めする理由の一つ。テキスト作成にはデザインジャーナリスト、高橋美礼も参加。
2点共に 撮影:木奥恵三

ふろくとして、「原形」が何かを知り尽くしていたデザイン界の巨人、エンツォ・マーリのパンチの効いた文章をお届けしたい。

一千年(ひとつのプロジェクトのデカンテーション)

10万人の作り手が毎朝、新しいかたちを発明すると公言する文化のなかでは、かたちを評価する基準は、長い年月の秩序のなかで測られると私は信じている。それは、数世代にわたる使い手とデザイナーを巻き込む一つのかたちの「タイプ(型)」を検証する時間だ。数千年にわたるものの進化が「アーキタイプ」を、つまり後に派生していくもののモデルとなる「原初」的かたちを決定している。これは人類の集合的文化の表現だ。デザイナーとは、こうした古の知を保管する役割を果たすべきなのである。
(引用:Enzo Mari, il lavoro al centro 1999, Triennale Notizie 翻訳:著者)

企画展「The Original」

会期|2023年3月3日(金) – 6月25日(日)
会場|21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
開館時間|10:00 – 19:00   入場は閉館の30分前まで
休館日|火曜日

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アートプロデューサー
RealTokyo ディレクター

住吉智恵