あどけない少年少女の頭部や、想像上の生き物「タニラ」などの陶芸作品で人気の大谷工作室さん。と言ってもユニットや集団ではなく、淡路島にスタジオを構える一人の陶芸家で、その作風はどこか埴輪を想像させます。ご自身も埴輪好きということで、東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 はにわ」を見に、一緒に出かけました。
聞き手・文= 松原麻理
大谷工作室:僕は特に埴輪だけを参考にしているわけではなく、いろんな時代や国の陶芸を見て、いいなぁと思って自分の作品にも投影している部分があります。埴輪って千何百年も前のものなのに、現代の僕たちにも何か訴えかけてくるというか、通じるところがあるんですよね。その埴輪が何を意味しているのか、なぜ作られたのか、正確には分からなくても、何かの感慨がじんわり伝わってきて、いいなぁって思う。理屈じゃなしに、時代を超えて残る作品であることに惹かれるし、自分もまたそういうものを作っていきたいと思うのです。
——特に本展のハイライトとなるのが、切手にもなった国宝《挂甲の武人》(東京国立博物館蔵)を含む類例が全部で5点、揃い踏みした展示室です。
東京国立博物館、国立歴史民俗博物館、群馬県の相川考古館、シアトル美術館、奈良の天理大学附属天理参考館と5館に別々に収蔵されている武人埴輪が一堂に集まったのはすごいですね。みんな顔もいいし、兜のはまり具合も絶妙です。刀に手をかけているかいないか、背中に靫(矢を入れる道具)を背負っているか、胡簶(矢を入れる道具)を腰から提げているか、微妙な違いはあるけれど、同じ工房でつくられたものだとされていますね。出土場所もすべて群馬県の太田市か伊勢崎市です。この中で僕にとってのベスト1はどれかといえば、群馬の相川考古館に収蔵されているものです。
この表情がいいなと思いました。目の高さが左右でちょっと違うんですよね。そしておちょぼ口で、なんとなく造形的にうねっている感じ。
埴輪って、顔のエラの線がすごくはっきりしていますよね。お面みたいに様式化されています。人物を造形物として表現するときに3次元で捉えることができなかったのではないかと思います。正面から見た時の輪郭線をそのまますぐ形にして、横から見た時のあごから耳の下にかけての丸みなどは再現できていないです。一方で、動物を作る時にはちゃんと立体的に捉えているから不思議ですね。
鹿、犬、猪、水鳥…… いろんな埴輪がありましたが、みんないい表情していますね。馬形の埴輪は、昔放映されていたNHK番組『おーい! はに丸』に出てくるお供の馬「ひんべえ」にそっくりだなぁ。これを参考にしてキャラクターを作ったのでしょうか。ちなみに、どんな埴輪も基本的には円筒形をつないで形作られています。粘土の塊のままでつくると、中心の方まで均一に乾かないまま焼かれた時、割れやすいんですね。だから空洞にできているんです。
——大谷さんが埴輪に惹かれたのはなぜなのですか?
僕は美術大学で彫刻を学んだのですが、昭和期の具象彫刻について研究していくと、自分には今の時代に彫刻家として、このオールドスクールの系譜のそのまま先に何かできることがあるとは思えなかったんです。僕の中で嘘をつかずに、他の人と共有できる表現は何なのかと模索していた時に出会ったのが陶芸でした。いろいろな時代の陶芸を見ましたが、なんであれ伝わるものは勝手に伝わるのだと感じました。時代や宗教や国境など関係なしに、美術史とか文化の文脈から離れてもなお、鑑賞に耐えうるものがいいなぁと思った。埴輪はまさにそういうものです。
僕の作品《ポセイドン》は涅槃像に見えるとよく言われますが、そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。宗教的なことから離れても、意味が混線しても価値が残るような作品をつくりたいし、美術の専門家だけじゃなくて、日常で出会う人にも伝わる表現をしたいと思っています。
ちなみに、僕も埴輪を持っていますよ。
大谷さん所蔵の埴輪。年代・出土地不明 ■本展には出品されていません
ずっと前から埴輪が欲しいと思っていたのですが、たまたまある古美術商のネット販売のページに出ていたのを見かけて、お顔に惹かれて購入しました。これも左右で目の高さが明らかに違うんですよね。木の台座を自作して、愛でています。
——3世紀〜6世紀の古墳時代に盛んにつくられ、仏教伝来の頃からパタリと姿を消す埴輪には謎も多く、制作意図などを含めて分からないことだらけ。だからこそ、さまざまな妄想を巡らすことができる面白さがあります。表面に刻まれた細かい文様や土の風合い、そして大きさなど、実物を目にすることで初めて得る発見も多い展覧会です。
会期|2024年10月16日(水) – 12月8日(日)
会場|東京国立博物館 平成館
開館時間|9:30 – 17:00[金・土曜日は9:30 – 20:00]入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜日
お問い合わせ|050-5541-8600[ハローダイヤル]
■巡回
九州国立博物館 2025年1月21日(火) – 5月11日(日)
コメントを入力してください