ピカソ、マティス、シャガールといったアーティストたちが集い、彼らの残した名画が所狭しと飾られたチューリッヒの伝説的なレストラン「クローネンハレ」、サイ・トゥオンブリーの立派なコレクションを持つミュンヘンのブランドホルスト美術館、そして、アートバーゼルに合わせて開催されたバイエラー財団のユニークな展覧会……。 藤原ヒロシが初夏のヨーロッパで過ごした「アート」な日々とは?
聞き手・文=鈴木哲也[編集者]
——藤原さんは毎年のように初夏のヨーロッパを旅されていて、その際、美術館やギャラリーを巡られているとか。先日もスイスを中心にヨーロッパへいらっしゃったということで、今回は、その時の旅の話をお聞かせください。
そうですね。僕はヨーロッパに行く時は、スイスを玄関口としているんです。バーゼルにすごく仲の良い友達がいて、彼に移動用の車を貸してもらったりするからなんですが。だから、ミラノで仕事がある時も、まずバーゼルに行って、そこで車を借りてからミラノに向かったり。今回も東京から直行便でスイスのチューリッヒに着いたあと、ホテルにチェックインする前にクローネンハレに行きました。
——クローネンハレは、何度もいらっしゃっているのですか?
クローネンハレは、もう、7、8回は行っていますね。初めて行ったきっかけは、そのスイスに住んでいる友達に「アートがたくさんあるレストランがあるから、ご飯を食べに行こう」と誘われて。バーゼルからも車で1時間くらいですね。
——クローネンハレというと、パブロ・ピカソやアンリ・マティスと言った巨匠の絵画が店中の壁に飾られているレストランとして有名ですが。
まあ、一応、ご飯も美味しいと言われていますけどね(笑)。絵画のコレクションに関しては、元々はチューリッヒに集まってきたアーティストたちが、ただでご飯を食べさせてもらっていたので、そのお礼に作品を残していったというようなことから始まったらしいです。
——それが、時を経ながら膨大な美術コレクションになっていった……。古き良き時代を思わせる素敵な話ですね。実際に店内に飾られていた作品で印象に残っているものはありますか?
その時代の作家のことはそんなに詳しくないのですが、やっぱりマルク・シャガールとかかな。今回行って変わっていたのは、店内の写真撮影が禁止になっていたんですよ。それを知らずに撮影をしようとしたら若いウェイターの人に注意されて(笑)。その様子を見ていたベテランの従業員の方が僕のところにやってきて「すみませんね、撮影は禁止になったんです」と説明してくれたんですが、お店自体も今はすごく人気があるようで、予約がなかなか取れないみたいで。良くも悪くもSNSの影響なんでしょうね。
——クローネンハレに限らず、アートバーゼルもありますし、藤原さんが好きだというバイエラー財団美術館もあるスイスには、やはりアートと深い関係のある国という印象がありますか?
アートを身近に感じるというのは、ヨーロッパ全体に言えることだと思います。ただ、スイスは金融の国でもあるし、昔から個人資産としての美術作品が集まる場所でもあったんでしょうね。第二次大戦中にたくさんの美術品がスイスに持ち込まれたなんて話も聞きますし。
——確かにヴィンタートゥール美術館のように、かつて個人が資産として所有していた作品を展示している美術館が多い印象です。そして、今回のヨーロッパの旅で藤原さんが次に訪れたのが……
チューリッヒの次にウィーンやプラハ、そして、その次がドイツのミュンヘン。
ミュンヘンでは一緒にいた友達に誘われて、ブランドホルスト美術館へ。初めて行ったのですが、たまたま僕はそのブランドホルスト美術館の作品が載った本を持っていて、「あの美術館は、ここにあったのか」と思って入ってみたら、とても良い美術館でした。サイ・トゥオンブリーの部屋があるんですけれど、そこにトゥオンブリーのペインティングが100点くらいあるんですよ。こんなトゥオンブリーが延々と続くという(笑)。
——凄い!
そう、めちゃくちゃ凄い美術館で驚きました。コレクション自体は近現代の作品が中心で、ジャン=ミシェル・バスキアやアレックス・カッツ、そして、もちろんリヒターもあって。80年代に青春ど真ん中だった人が好きそうなコレクションという印象ですね。僕が行った時にはアンディ・ウォーホルとキース・ヘリングの企画展が予告されていました。この美術館は穴場というか、意外と知られていないみたいですけれど、皆さんの「いつか行ってみたい美術館」のリストに、ぜひ入れてください(笑)。
——今後、サイ・トゥオンブリーの大きな展覧会とか日本ではなかなか開かれそうにないですからね。作品が来ないのだったら、ここに観に行けば良い、と。
そして、ミュンヘンの次はまたスイスに戻って、スイスのヴァルスというところに泊まりました。
——ピーター・ズントーが設計した温泉施設ですね。
そうそう。ヴァルスには昔から何度も行っているんですが、最初に行ったのは2000年ごろかな。以前、友人の建築家に頼んで家を建てた事があるんですが、その時、その友人と二人で建築の本を読みまくっていると、どの本にもズントーが設計したヴァルスの施設が載っていて。それで、どうしても行きたくなって。その頃は宿泊する施設はなかったんですが、確か5、6年前にホテルができたんです。ホテルは2ヶ所あって、メインのホテルはいわゆるラグジュアリーなリゾートホテルで、もう一つは安藤忠雄さんと隈研吾さんとピーター・ズントーがそれぞれ設計した部屋のあるリノベーション型のホテル。今回、僕は隈研吾さんの部屋に泊まりました。
——そこには一泊ですか?
そうです。そして、翌日はバーゼルに戻って、アートバーゼルを覗いてから、ヴィトラデザインミュージアムとバイエラー財団(美術館)に。ヴィトラは友人のデザイナーが展示をしているというので、観に行きました。ヴィトラは時々面白い展覧会をしていて、前に行った時には「NIGHT FEVER」というニューヨークのクラブの歴史を振り返るような展示をしていましたね。
——バイエラー財団はどうでした?
アートバーゼルの時期に合わせて「Dance With Daemons」というタイトルの凄い展示をしていました。スタッフがバーっと現れて、壁の作品を頻繁に替えていくというパフォーマンス的な展示もあって。これ、面白いですよ、アルベルト・ジャコメッティの彫刻の人物がフランシス・ベーコンの絵画を鑑賞している(笑)。
——面白いですね。他にもモネとルノワール、ヨーゼフ・ボイスとウォーホルといった時代を超えた複数の作品のつながりを表現するというような試みなんですね。
僕も早速真似しようと思って、日本に帰ってから、僕が作ったドラえもんのフィギュアにトム・サックスがバーっと字を描いていったのがあるんですが、そのドラえもんとジェフ・クーンズの犬の彫刻がお互いに見つめあうように飾ってみました(笑)。
——良いですね(笑)。というわけで、今回の欧州の旅でも充実した日々を過ごされたようですね。
そうですね。でも、特に予定を立てていたわけでもなく、車で気が向いた場所を訪れただけなんですが(笑)。なので、読者の皆さんも、もしヨーロッパの国々を友人と巡る機会があったら、僕は車での移動をお勧めします。国を跨ぐということで、どうしても飛行機での移動を前提にしがちですが、車なら飛行機のトランジットと違って、目的地の途中にある街に寄ってみると、アートに限らず思いがけないものや出来事に出会えたりしますし、それぞれの国や地域の風土や景色の違いを感じることができて楽しいですよ。
住所|Theresienstraße 35a, 80333 München
開館時間|10:00 – 18:00 [火曜日 10:00 – 20:00 ]
休館日|月曜日
■開催中の展覧会情報など、詳細は上記リンクよりご確認ください
住所|Baselstrasse 101, CH-4125 Riehen/Basel
開館時間|10:00 – 18:00 [水曜日 10:00 – 20:00 /金曜日 10:00 – 21:00]
■2024年8月12日 – 25日は展示替えのため美術館、ミュージアムショップ、「バイエラー レストラン IM パーク」を休館。開催中の展覧会情報など、詳細は上記リンクよりご確認ください
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