Calder with Red Disc and Gong (1940) and Untitled (c. 1940) in his Roxbury studio, 1944. Photograph by Eric Schaal © Life Magazine

“動きをともなう”彫刻で美術史に名を残したアメリカの彫刻家アレクサンダー・カルダー。日本での過去最大規模の展覧会が麻布台ヒルズ ギャラリーにて9月6日まで開催中だ。動力源を必要とせず、気流や光、湿度、人間の相互作用に反応して動く彼の代表作「モビール」を眺めていると、いつのまにか瞑想的な時間に誘われていく。都会の中心で感じた“癒し”はどこからくるのだろうか。

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展は東京では約35年ぶりに、アレクサンダー・カルダーの約100点の作品をまとめて見られる貴重な機会だ。ニューヨークのカルダー財団理事長、アレクサンダー・S. C. ロウワーのキュレーションを受け、この秋に日本進出を控えるPaceギャラリーと共催。代表作であるモビール、スタビル、油彩画、ドローイング、映像なども展示される。今回の個展では “アメリカのモダンアートを代表する彫刻家”としてだけでなく、彼の作品がもつ新たな側面にフォーカスし、より親密な印象を持つものに。その秘密を会場デザインを担当した、建築家・ステファニー後藤氏に聞いた。約20年、カルダー財団のプロジェクトを担当していたという彼女は日本との共通点を探したという。

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

——展示のコンセプト「カルダーの芸術作品における、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴」は会場構成と関係があるのでしょうか?

カルダーの作品と日本的な感性をどう結びつけるかということが今回の重要な課題でした。さらに、作品と空間、人と空間、人と作品、それぞれの対話の融合はチャレンジだったと思います。全体の調和を図るために、“三平方の定理”を使おうと考えました。3つの辺の比が3:4:5ならば必ず直角三角形になる定理。壁の角度や作品を設置した台などの設計に活かしています。テーマ性をもった各部屋のアングルも特徴のひとつですが、全体的に明るさと軽さの調和した空間に仕上げました

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

——赤い壁や木材を使用した空間など、日本の建築から着想を得たことはありますか?

会場の大きな一つの壁一面を使用した赤い漆喰の壁は5メートルの高さがあり、展覧会冒頭の流れを作ることを意図しています。会場入口のカラフルな作品《Fafnir》から始まり、赤い壁を横に見ながら、ひとつめの部屋は木材を使った空間、その隣は墨を使って染めた黒い和紙を壁面に使用しています。カルダーの作品は白い空間の中で見ても素敵ですが、それぞれの空間が独立した茶室のような雰囲気をもたせることにより、これまで、カルダーを知っている人にも違う目で見てもらうことができないかと試行錯誤しました。最終的に、日本の素材を使いながらもモダンに映ることを重視しました

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

——3:4:5の比率で空間を作られているとのことですが、展示空間を歩いていると、ひとつひとつの空間が重なり合うような複雑な構造にみえることもあります。

日本の建築には、徐々に見えてくるものや消えていくものを効果的に使った様式が見られます。見え隠れするところに面白さがあるのだと思います。展示空間の天井がせり出しているようなアイデアは写真家の石元泰博さんが撮った桂離宮をイメージしました。私はアメリカや海外に住んだ経験がありますが、日本人として日本のことも理解していますし、その想像もしなかった美しさを海外の方にもっと知ってほしいと思っています。カルダーは生前一度も日本を訪れていないにも関わらず、日本文化に精通していたそうなので、そういう意味ではカルダーと私は似た感覚をもっているかもしれません。

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

——カルダーの作品というと色の力を感じますが、今回は造形の美しさにも目をひかれます。

ひとつひとつの造形のエッジが綺麗に見えることに気を配り、照明の使い方にもこだわっているからだと思います。あえて影を出さないような照明を組んでいる空間があったり、天井から光が注ぐような仕掛けもあります。エッジの面白さについて語るとするならば、カルダーの作品を展示する際に全体を黒い和紙で囲った部屋を作ったことも新たな試みです。スタンディングモビールの作品には金属を黒く塗ったパーツがありますが、それが黒い壁全体と調和することで、他の色が引き立ちます。黒いパーツの部分は空間に吸い込まれるように見えますが、動いていくうちに時折浮かび上がって見える瞬間もあります。白い壁だと、最初からすべてが見えますが、黒い壁にすることで、作品の構造やエッジの美しさに新しい発見があるでしょう。

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

——冒頭にはカルダーの動物のスケッチがあることにも驚きました。この構成の意図はありますか?

この作品群は1925年頃のものですが、当初は展示をする予定はありませんでした。作品を配置していくうちに、この作品を加えることで、彼の中のつながりを表現できると思い、途中から加えることになりました。動物のスケッチは初期の作品ですが、この頃すでに彼は線のエネルギーを感じていたことが分かります。その後に手がけたモビール作品にも猫なのか魚なのか、動いているうちにあいまいに思えるモチーフがでてきます。そこには、初期の作品に見られるような、いきいきとした描写と鑑賞者の想像に任せるような自由さも感じられます

——映像作品《カルダーの作品》(1950)ではカルダーの制作風景や子供が遊ぶシーンも印象的です。

ハーバート・マターという写真家が撮った映像作品です。カルダーのスタジオがあった米コネチカット州のロックスベリーで撮られたものです。カルダーはアシスタントを持たずに、常に自分の手を動かして何かを作っていたそうです。彫刻作品を作る際でもスケッチをせずに、まずは手を動かすことで、自分のなかのエネルギーを表現するというスタイルでした。映像のなかでは、写真家の子供がカルダーの作品に触れるシーンが出てきます。手で触れることで彫刻が動くという、作品がもつ楽しさも感じられるようです。展覧会では鑑賞者は作品に触れられませんが、できるだけ作品に近づいて見てほしいというカルダー財団の意図を展示に反映しました。近くで作品を見て、対話をすることから、自分の中の何かを探し出しだすきっかけになればと考えています

Installation view of Calder: Un effet du japonais, Azabudai Hills Gallery, 2024 Photo: Tadayuki Minamoto

年代やセクションで区切らずに、自由に回遊できる会場構成は一見の価値あり。日本的な繊細な美意識とまじわることで生まれた空間には、カルダーの部屋に招かれたような居心地の良さを感じる。始まりと終わりのない構成だからこそ、一度見終わってから何度も戻って眺めていたくなるのだ。彫刻も絵画もスケッチもすべてがシームレスにカルダーの表現につながっていることを体感してほしい。

All works by Alexander Calder
All photos courtesy of Calder Foundation, New York / Art Resource, New York
© 2024 Calder Foundation, New York / Artists Rights Society (ARS), New York

カルダー:そよぐ、感じる、日本

会期|2024年5月30日(木) – 9月6日(金)

会場|麻布台ヒルズ ギャラリー

開館時間|月 – 木・日:10:00 – 18:00 金 – 土・祝前日:10:00 – 19:00[入館は閉館の30分前まで]

休館日|8月6日(火)

お問い合わせ|azabudaihillsgallery@mori.co.jp

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