坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開店していました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ!今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

クリスマスシーズンに準備すること

この季節のパリはいつも以上に輝いている。

どこもかしこもキラキラしていていて、週末の大型デパートに近づいてしまったら最後、人混みの渦に巻き込まれて、気づけばノエルの魔法で何かを買ってしまう始末。女の子だろうがおばさんだろうが、ショーウィンドウに並ぶキラキラのスパンコールがついているパーティドレスを眺めて、妄想してしまう。そう、妄想しているのは紛れもなく、ノエルと私なのだ。

「Christmas(クリスマス)」はご存知の通り英語で、フランス語では「Noël(ノエル)」といいます。サンタクロースは「Père Noël(ノエルの父)」。父とはいうものの、空をトナカイで駆け抜けてプレゼントを煙突から持ってくるのは世界共通です。

日本と大きく違うのは、フランスでは恋人たちが愛を確かめ合う日ではなく、家族と過ごす大切な日というところ(いや、日本の場合も、バブル時代の某松任谷由実さんの楽曲からそんな意識ができたかも、ですが…)。だから、もちろん愛する人が家族になっていれば一緒に過ごせるけれど、カップルの段階だとノエルはお互いの家族と過ごす日であることが大前提なので、愛を語り合っている場合ではないのですよね(苦笑)。

さてそうなると、結婚後はどっちの両親と過ごすんだ?という問題が出てくるのですが、双方の両親が一斉に集まり盛大なパーティになることもあるし、24日はそっちで25日はこっち、という場合もあるみたい。そこは日本のお正月と一緒でしょうか。

私たち家族にとってはパリに引っ越してきて、2回目のノエル。ちなみに、日本では一年で最大のイベントはお正月ですが、フランスではノエルなのです。家族で美味しいものを食べてお酒を飲み語らうところは一緒で、おせちが大きな Chapon(シャポン)と呼ばれる雄鳥。この雄鳥は、タマタマを切り取られ去勢され大きく太るのだとか。このかわいそうな雄鳥くんに栗などを詰め込んで焼くのがノエルのメインディッシュ。日本でいうお正月の初詣は、ノエルの「ミサ」になり、縁日は「マルシェドノエル」になります。縁日に飲む「かす酒(甘酒)」は「バンショー」と呼ばれるホットワインに。文化の違いによる慣習って興味深いですよね。

去年、引っ越し後初めてのノエルは夫の実家で過ごしたけれど、すべてが初めてのことで実はあまり覚えてない。きっとワインの飲みすぎだったのでしょう。カウントダウンの頃には酔っ払って早々に寝ていた気がします。ダメな嫁ですね(笑。

今年こそは、記憶に残るフランスでのノエルを迎えるべく、私がそのために用意しているクリスマス前のこのシーズンに準備することを、今回は書いてみようと思います。



「素晴らしいノエルを迎えるためにする10のこと」


1 まずは(家族や大切な人と過ごすため)電車や飛行機のチケットを買う

ノエルが近づくと、家族と過ごすためにパリから一斉に民族大移動が始まります。電車や飛行機は日に日に満席になり高額になっていく。チケットを取り損ねた人は、パリから脱出する人の大渋滞の列に並ぶことになってしまいます。車で行ければまだ良いけど、飛行機が必要な場合は夏の終わり頃から年末のチケットを要チェックです。


2 子供はサンタクロースへの手紙をポストに投函

フランスでは、子供は「ペーノエル(サンタさん)」に手紙を書いて郵便局のポストに入れます。もちろん切手は貼りません。そうすると不思議なことに、ペーノエルから返事が届くのです。「わかったよ、ノエルに君の家にプレゼントを持って行くから良い子にしておいてね」的なお手紙です。日本にいた時も、欲しいプレゼントを把握するために書いてもらっていたけれど、返事が来るサービスを郵便局がやっているのは嬉しいし、子供にとっても夢がありますよね。



3 家族全員へのプレゼントを探し、素晴らしい梱包をすること

家族全員が集まるノエルですから、自分の子供へのプレゼントはもちろんのこと、おじいちゃん、おばあちゃん、父母、兄妹、兄妹たちの子供たちの分までプレゼントの準備が必要です。去年の私は、10個分のプレゼントを用意し梱包しました。これはこちらの友人たちに言わせると少ない方だそうです。友人は、2歳から95歳まで合計20個近くのプレゼントを探して購入し、すべての梱包をやったんだ!と武勇伝を話してくれました(驚。選んだプレゼントが素敵であることはもちろん、お店の梱包ではなく自分流のプレゼント包装をする。なので百貨店にはプレゼントと一緒に、梱包のデコレーションやカードもたくさん売られています。プレゼントと梱包とカード、20人分…考えるだけで気が遠くなります。それだけ経済が動いてるので、百貨店側も本気度が違うのでしょうね。



4 Sapin de Noël(もみの木)をデコレーション

11月中旬頃から、スーパーやホームセンター、園芸屋さんに並ぶ生のもみの木。小さなのもは日本同様のサイズですが、大きなものは3mあるものも。教会でも買うことができて、ボーイスカウトが家まで持ってきてくれるそうです。だって3mもあるもみの木、普通に運べませんよね。3mのもみの木を家に飾るためには広くて天井の高いリビングが必要ですが、ここ6区ではそのような家がたくさんあるということなのでしょう。だってたくさん売っているのだもの。

またデパートのデコレーション売り場には、Crèche de Noël(イエス・キリストの降誕場面を描いた模型)セットが並びます。キリストが生まれた馬小屋に、聖母マリアやジョゼフや天使たちなどの人形を事前に飾っておいて、赤ちゃんのイエスキリストを25日に加える。初めて見た時は不思議だなあと思ったけれど、日本でいえば、一年に一度出す雛人形のようなセットだと思えば、そんなものですかね。



5 カウントダウンパーティのお誘いをすること、または誘ってもらうこと

25日のノエルは家族で過ごしますが、31日は家族+友人たちで大騒ぎというのがこちらでの一般的な過ごし方。大晦日(Réveillon du Nouvel An)には、豪華な料理を食べて、シャンパン片手に夜中まで踊る。私が知っているフランス人は良く飲み、良く踊ります。おじいちゃんもおばあちゃんも。シャンパンは水のように飲んでいました。深夜0時にはカウントダウンして「Bonne Année!(あけましておめでとう)」を言い合って、感謝の気持ちでお互いに ”bise(ビズ)” 大会。あ、ビズってご存知ですか?よく映画とかでも出てくる唇でチュッと音を鳴らし、頬を触れ合わせるアレです(笑。

今年の大晦日は、夫の実家に大勢のお友達が集まり盛大にパーティを開催するそうなので、私はフランスの懐メロとクルクル回るダンスを覚えて挑みたいと思います。



6 キラキラの服を買う

きっと大切なのは、キラキラの服。この時期、女性のお洋服屋さんのショーウィンドウはキラキラの服が並んでいます。私から見ると…ドラッククイーンのような金のスパンコールがついているやつ。誰が着るんだろうと笑って見てたら、横で見ていたマダムたちが「今年のパーティはこれが最高ね、あなたの去年のドレスに似ているわ。私買うから!」と盛り上がっていました。

私は着れない、、、、無理、、、、いや、でも気がついたらノリノリで着てるかも。どうなることやら(笑。

男性はというと、しまっていたダサいセーターをクローゼットの奥から出してきて着用します。それも一年でこの時期しか着ないダサいセーター。ノエルの雰囲気を盛り上げるためのセーターなのでしょうか。

そういえば、クリスマスにダサいセーターを着るといえば、映画「ブリジット・ジョーンズの日記(2001)」を思い出します。あの映画が公開された頃は、ちょっと残念な感じで扱われていましたが、実は最近欧米ではわざとこのダサいセーターを競って着るようになったのだそう。ダサければダサいほどいいんですって。なんですか、その文化?(笑。

映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)から引用




7 マルシェドノエルに行って暖かいワインを飲む

Marché de Noël(マルシェドノエル)とは、お正月の縁日のような感じで小さな小屋が立ち並ぶ広場で、ノエルな食べ物や物が買える場所のこと。ノエルのデコレーションが広場中に広がり、ノエルの音楽に美味しそうな香り。日本の縁日でのお好み焼きはクレープに、人形焼はマカロン、かす酒(甘酒)はホットワインとなるわけです。フランスのホットワインは vin chaud(ヴァン ショー)といって、シナモンや柑橘系の果物が煮込んであって本当に美味しいのですよ。ちなみに「ヴァン」がワインのこと、「ショー」が熱いという意味です。



8 24日から仕事をしない

12月に入りノエルが近づくと、パリジャンたちはすごく忙しそうにしています。きっと年末シーズンの終わらない仕事を片付けているのでしょう。だけどその仕事がたとえ終わらなくても、24日の昼過ぎになると片付けが始まり、夕方にはオフィスはすっかり誰もいない状態になってしまうのがフランス。レストランやデパートまでもしっかり休みになるのだから驚きます。日本だとそんな時期にお店を閉めてしまうなんてありえないですよね。

お休みに入る社会人たちにとって、年末のお買い物と飲み歩きは楽しいものですが、フランスではそんな雰囲気はありません。日曜日に皆が働かないことと同様に、一年の最大イベントである12月25日のノエルを一緒に過ごすために、前日の24日には愛する家族がいるところへ向かわなければならない、真剣勝負なのです。



9 25日午前0時の教会に行く

24日には、久しぶりに会える家族たちとの楽しい時間で、お酒を飲みすぎてしまうことも(まさに去年の私の場合)多分にありますが、酔っ払って酒臭いまま25日午前0時のミサに参加することはできません。だから酔っ払いは家で寝てしまうわけです。しかし今年こそは、お酒はほどほどにして25日の0時のミサに子供たちと一緒に行きたいと願っています。

そしてミサから帰ってきたら、もみの木の足元に自分のスリッパか靴を置いておくこと。そうすると、あーら不思議。寝て起きたらプレゼントが自分の靴の横に置いてありますから。


10 Art de vivre  -自分の大切な人と想い-

“Art de vivre(アール・ド・ヴィーヴル)” という言葉があります。直訳すると「暮らしの芸術」という意味で、フランス人の年末の過ごし方は、この言葉に集約され、人生の哲学や道徳、生活美学を知ることができます。もちろん、人それぞれの ”art de vivre” があるので美学は様々ですが、私は何を必要としていて、何を優先することで幸せになるのかを考え、実行するからこそある、美しく豊かな生活がこの言葉の意なのではないかと思います。

ぜひ皆さんも、貴方の “art de vivre” を探してみてください。感性を豊かに、一瞬一瞬の日々の暮らしの中で、生活の美学を見つけ、感じる心のゆとりを持つことで、人生を深く味わえるようになると思います。



さて最後にご案内です。

来週18日に、前回10月に実施して好評いただいたオンライントークライブを開催します。

1856年に創業したパリで2番目に古いデパート「ベー・アッシュ・ヴェー(BHV)」からスタートし、パリ市庁舎(オテル・ド・ヴィル)のクリスマスマーケットまでイルミネーションに輝く街をお散歩しながらご案内する予定です。ちょっと深い時間のスタートなので恐縮ですが、ぜひライブ参加くださいませ(厳しいぞって方は、あとでアーカイブ視聴もできますので登録だけしておいてね)。


■坂田夏水オンライントーク(参加費無料)
・2023年12月18日(月)25時30分ー26時15分(日本時間)
参加お申し込みはこちらからどうぞ!

注)アーカイヴでの視聴をご希望の方も上記から「参加登録」をしてください。



では皆さま、素敵なノエルをお過ごしください。


Joyeux Noël

夏水

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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。

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