ある日、藤原ヒロシは一人の画家を見つけた。そしてすぐに作品を買い求めた。画家は1992年、ウクライナ・キーウ生まれ。現在はカナダ在住。伝統的画法で静物画や風景画を描き、そこにグラフィティの手法でスプレーペイントを重ねる。二次元(写実)の上に再現された三次元(虚構)を強引に二次元(現実)に引き戻す。あるいは、一つの絵の中に過去(絵具)と現在(スプレー)の2つの時間が流れている。
——現在、天王洲のギャラリーT&Y Projectsでマイケル・チェルノの「ACADEMIC VANDALISM」展が開催されています。藤原さんは、このマイケル・チェルノにいち早く注目されていたということですが、どのように作品を知ったのですか?
藤原ヒロシ[以下F] きっかけもなにも、インスタグラムで偶然目にしていたんですけどね。僕はトラディショナルなものとヴァンダライズなものが融合しているようなものが好きなので、彼の作品が気に入って。それで、本人に連絡を取ってオンライン経由で作品を手に入れました。
鈴木芳雄[以下S] 作家本人と直接やり取りしたんですか?
F そうですね。その後、マイケルが販売しているサイト——ギャラリーというより、オンラインマーケットのような——を紹介してくれて、そこから購入しました。
S 実物は見てないで購入を決めたんですよね? その自信は、普通はなかなかね(笑)。
F 僕は、いつも“自分が好きかどうか”で判断しているので(笑)。だから、バックグラウンドがしっかりしていて、すでにブランド化しているものの中にも好きなものはあるし、逆に無名だけれど良いものを見つけるのも、好きなんですよ。
S でも普通は、そこまで(自分の感性に)自信がないから有名なギャラリーが扱っているとか、さらにつまらないことだけど「誰それ先生の弟子」とか、そういう情報に頼らざるを得ないですよね。ヒロシさんみたいになりたいけど、何を根拠に美術作品を買えばいいかわからないって言うわけですよ(笑)。
F その“根拠”というのが、僕にはあまり無いんで(笑)。
Michael Cherno, Still Life with Duck, 2026
——とはいえ、実物を見ると写真と印象が随分違ったりするのがアート作品には多いと思うんですが……。
S 特にマイケル・チェルノの作風だとアカデミックな静物画の部分が薄っぺらくても仕方なかったりする。でも、今回実際に見たらちゃんとしている。上手いんですよね。
F そうですね。最近の若いアーティストは写真をもとに絵を描いている人が多いと思うんです。もちろん、それでも素晴らしい作品はたくさんあるわけですが、マイケルは明らかにデッサンから絵を描いていますよね。そこに惹かれたような気がします。
S 確かに、有名な絵画を模写したというコンセプトではないですね。セザンヌとかにありそうだけれど、実は無いっていう。
Michael Cherno, Still Life with Post Knife, 2026
F 写真をもとに描くと上手いんだけれど2Dっぽく見えるじゃないですか。マイケルの場合は手描きのデッサンが生む独特の立体感があると思うんです。
S (絵画は)本来は三次元のものを平面に描くわけだから、相当に立体感を意識して描かないといけないんですよ。けれども、その立体感をこのグラフィティでぶっ壊すっていうのがあって、遠近法とかをちゃんと意識してせっかく出した立体感を自分で壊してしまうことで、「この絵が描いているのは三次元だっけ、二次元だっけ?」っていう戸惑いを与える面白さがある。この三次元と二次元の揺らぎが印象的ですよね。そして、そのためには古典的な静物画の部分をトゥーマッチなくらいに光を強調して描かないと立体感が湧かないわけですよ。
F それで言うと、この個展に出品されている作品は僕が買った時よりも、はっきりと“上手く”なってますね(笑)。それを本人に言ったら、「美術大学の先生に見てもらって、講義を受けた」って言うんですよ。そもそもは、彼のお爺さんが古典的な、それこそ“アカデミック・ペインティング”と言われるような古典的な絵を描いていて、それを見よう見まねで始めたらしいんだけれど、今はアカデミックな手法をきちんと学んでいるそうです。
S さらに面白いのはグラフィティにも影がついているのがあるんですよね。これは、今の人は画像を紙ではなく発光するモニタやディスプレイで見ているからか、光を描くだけでは物足りず、影を強調したがるように思うんですよね。それはアートに限らずグラフィックデザインでもそうで、キャンバスや紙といった光らないものの上に描かれたものは影をつけるくらいしないと、コントラストが弱く感じて不安なんじゃないかな。それが、空間の立体感を際立てる“光”と“影”という二つの概念を一つの絵の中で効果的に使うことで、上手く遊んでいるように思うんですよ。
Michael Cherno, Vanitas with Grapes, 2026
F さっき言った「以前より静物画の部分が緻密になった」というのも重要で、古典絵画的な部分が、しっかりすればするほど、“ヴァンダリズム”的なものが映えると思うんですよ。
S まず、“アカデミズム”、つまり古典的な静物画を写実的に描いて、その後にグラフィティが加わる、という二つの時間軸が一つになっているんですよね。それで、古典絵画の部分だけ見れば、そういう絵にも見える。そうした二つの層が一枚の絵の中にある。それが面白い。
F 鈴木さんにそう言ってもらえるとは。今日は「こんなのアートじゃない!」って言われる覚悟で来たんですけれどね(笑)。
Michael Cherno Solo Exhibition “ACADEMIC VANDALISM” 展示風景
マイケル・チェルノ[Michael Cherno]
インタビュー
今回の個展のタイトル「ACADEMIC VANDALISM」は、私の一連の作品の総称でもあります。古典的な静物画のイメージをグラフィティで錯乱させる、このコンセプトは、私の生い立ちから来たものです。私は建築の学校に通っていたとき、アカデミック(古典的)な絵画について学んでいました。その一方で、グラフィティにも夢中になっていたんです。また、私の祖父は画家で彼からも古典的な絵画を学びました。私の中にあるこうしたコントラストを作品にできないかと思い始めたのが、私の「ACADEMIC VANDALISM」なのです。今回、アジアで初めての個展を開く機会に恵まれ、まずは私の作品を知ってもらおうと思い、展覧会のタイトルにしました。
会期|2026年3月13日(金) – 4月25日(土)
会場|T&Y Projects 東京都品川区東品川1-32-8 TERADA ART COMPLEX Ⅱ 4F
開廊時間|12:00 – 17:00
休廊日|日・月・祝日
uniform experiment × Michael Cherno
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