
世界の人々を理解するためには各地の歴史や習慣を知るべき。ならばと、長い歴史の中で祈りや祭りのためにあったものを集めようと考えた人たちがいました。それは今の言葉を借りれば、文化の多様性を認め、理解するということです。百年近くそんな活動をしてきた天理大学附属天理参考館のコレクションと、奈良国立博物館所蔵の仏教美術作品などを組み合わせる展覧会が開催中。
そこでコラムニストの辛酸なめ子さんが見たものは?
天理参考館や奈良国立博物館が所蔵する貴重なコレクションをもとに厳選された展示品が並ぶ、特別展「世界探検の旅」。文化の交流について考えさせられる興味深い展示で、世界のディープな風習にも引き込まれます。昨今「呪物」がブームですが、この会場にもそんなヴァイブスを放つアイテムがひしめいていました。

「世界探検の旅—美と驚異の遺産—」展示風景 奈良国立博物館、2025年
《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》 《儀礼劇チャロナランの仮面 聖獣バロン・ケケット》 インドネシア、バリ島 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵
精霊の仮面が並ぶコーナーも圧巻で、神と人とをつなぐ本気のクリエイティビティに目を奪われました。日本の妖怪にも通じるものがあります。

「世界探検の旅—美と驚異の遺産—」展示風景 奈良国立博物館、2025年
パプアニューギニアの仮面のうち、印象的だったのは精霊仮面「コヴァヴェ」。豚の霊魂を食べて生きる山に棲む精霊を模しているそうで、身に付けた瞬間、変性意識に導かれそうです。男子が成人となったとき、秘密結社への入社式で着用されます。

《精霊仮面「コヴァヴェ」》 パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵
そしてひときわ妖気を放っていたのが、台湾原住民族、ブヌン族の《首狩りの刀》。日本統治時代まで首狩りの風習が残っていたそうで、まだ最近のものだと思うと呪物の残留思念も漂ってくるようです。首を狩りやすいような形で、柄が長いのは血しぶきを浴びない工夫でしょうか。まさにこの分野では「グッドデザイン賞」ものです。首狩り族の勇者の上衣「ルクス・カハ」も伝統的なストライプがおしゃれでした。

世界の儀式や風習にまつわるものは、この仮面や刀や限らず、デザインや色彩センスが優れていて、時代を経ても古びない普遍性を感じます。血なまぐさい風習は途絶えても、芸術性は受け継がれていってほしいです。

「世界探検の旅—美と驚異の遺産—」展示風景 奈良国立博物館、2025年
最後の展示室には、現地にもほぼ残されていない「北京の看板」、中国語で「幌子(ホァンツ)」と呼ばれる文字を描かない看板が並ぶ。まるで一点物のピクトグラム
今回の展示では、特設ショップも充実していました。世界各国の名産品や、雑誌『ムー』とのコラボグッズ。さらにプリクラまであって、カナダの《戦士の栄誉礼冠》、唐時代の《加彩鎮墓獣》などの顔ハメ写真が撮影できます。世界探検の旅の最後に、自分もその歴史の一部となることができました。

《加彩鎮墓獣》 中国 唐(8世紀) 天理大学附属天理参考館蔵

《戦士の栄誉礼冠》 カナダ 20世紀中頃 天理大学附属天理参考館蔵
会期|2025年7月26日(土) – 9月23日(火・祝)
会場|奈良国立博物館 東西新館
開館時間|9:30 – 17:00[土曜日は9:30 – 19:00]入館は閉館の30分前まで
休館日|8/25(月), 9/1(月), 8(月), 16(火)
お問い合わせ|050-5542-8600[ハローダイヤル]
■辛酸なめ子さん応援コメント
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