ホセ・パルラ「Home Away from Home」展示風景  ポーラ ミュージアム アネックス、2025年

ホセ・パルラ。キューバ出身の両親のもと、マイアミに生まれた。移民文化の中で育つ。もとはダンサーだった。それを聞くと高い身体性が発揮されている彼の絵に納得できる。都市の雑多ぶり、複雑さを愛す。それを写した絵。
今回の展覧会タイトル「Home Away from Home」。家のようにくつろげる場所。第二の故郷。表現なら、ダンスだろうとアートだろうと。アートなら、グラフィティだろうと絵画だろうと。居場所なら、ニューヨークだろうと東京だろうと。彼にはそこがホームだ。

——現在、ポーラ ミュージアム アネックスで個展「Home Away from Home」を開催中のアーティスト、ホセ・パルラと藤原さんは20年来の親交があるということですが。

藤原ヒロシ[以下F] そうですね。ホセはグラフィティ出身のアーティストということもあって接しやすかったというのはありますね。今の彼が美術の世界でどういう評価をされているかは、よくわからないけれど、こんな風に展覧会をやるようになる前からの知り合いです。

藤原さんが持つ、ホセ・パルラ初期作品 [本展には出品されていません]

鈴木芳雄[以下S] 作品を所蔵している美術館を調べると、ブルックリン美術館や大英博物館といった名前が挙がってきますね。

F そうなんですね。パブリックアートとしては、NYのワン・ワールド・トレードセンター(旧WTCの跡地に建設されたビル)のロビーにある9.11からの復興をテーマにした大きな作品《ONE: Union of the Senses》がホセによるものです。10年くらい前、彼のNYのアトリエに遊びに行った時にちょうど、その作品を制作しているところでした

——グラフィティ出身のアーティストとしては異色の存在のように思います。

F 僕もそう思います。めちゃくちゃアートに詳しくて、会う度に新しいアーティストのことを教えてもらったりしていました。実際、グラフィティ出身で、KAWSのようにポップな方向へと洗練されるのではなく、アブストラクトな作品へと進んだアーティストは、ホセとフューチュラくらいじゃないかな。ポップさがない分、売れないのかもしれないけれど、それでも、ホセは本格派のアーティストへの道を選んだのだと思います。ホセって、最初に会った時はダンサーだったんですよね。“EASE(イーズ)”って名前で。だから、その時は彼がこんなふうに絵を描くなんてことも知らなかった。

ホセ・パルラ 《Pedestrian Ensemble》 2011年 個人蔵

——そうだったんですね。

F まあ、踊っているところを見たわけでもないんだけれど(笑)。友達から「ダンサーでグラフィティアーティストなんだよ」って紹介されて。

——彼はグラフィティアーティストとして活動した後に美術学校に通っているんですよね。だから、ちゃんとアカデミックな教育も受けている。

F そうなんですね。それは、僕も知らなかった。

ホセ・パルラ 《Lower East Side, New York》 2007年
本展出品の藤原さん所蔵作品

S 珍しい経歴ですね。もちろん、美術学校に行かなくてもアーティストにはなれるけれど、学校に通えば画材や技法のことはもちろん、美術史や世界的な動向も含めて美術の世界について効率よく学べますからね。自分で調べることもできるだろうけれど、美術教師に教わる方が時間を短縮できます。また、グラフィティ出身のアーティストはルーツや経歴がユニークな人が多いですね。ホセはキューバ系ですが、例えばバリー・マッギーはアジア系のルーツも持ってるでしょう。そういうところも面白いというか。(ジャン=ミッシェル・)バスキアもルーツはハイチかな。そのバスキアを初期の頃に扱っていたギャラリーがアニナ・ノゼイっていうところで、そこの地下スタジオでバスキアは制作していたんですよね。

F 僕のイメージでは、バスキアはグラフィティアーティストに入らないんですよ。グラフィティアーティストってスプレー缶を使うイメージ。スプレー缶で地下鉄の車両なんかに描く感じというか。バスキアはグラフィティというより、“落書き”というか。そこは、僕の中で結構、区別されているんですよね。

——つまり、スプレー缶を使って描くのがストリートカルチャーとしてのグラフィティのマナーであって、バスキアやキース・ヘリングは、あくまでアートのオルタナティブとしての“落書き”であると。

F そうそう。地下鉄に自分たちのグループのサインを描くとか。

——逆に言うと、ホセ・パルラはそうしたストリートの世界からファインアートの世界へと進む決断をしたように見えます。

F そうだと思う。

ホセ・パルラ 《Morning Blossoms Over Tokyo (Multiversal)》 2025年

S 落書きといえば、以前、奈良美智さんがNYの地下鉄の駅に落書きをして、逮捕されたことがあったでしょう。そのせいで、最近までアメリカへ入国する際には、毎回、空港の別室で対応されていたっていう(笑)。

F インベーダー(フランス出身のストリートアーティスト)は日本で逮捕されて、日本にしばらく入れなかったそうですよ。その点、逆にホセはもう街に落書きするようなことはしないでしょうね。ストリートのコミュニティから出てきたけれど、アブストラクトを中心とする本格派のペインターへの道を歩んでいる唯一の存在じゃないかな。まあ、フューチュラもそうと言えるかもしれないけれど。

ホセ・パルラ「Home Away from Home」展示風景  ポーラ ミュージアム アネックス、2025年

——藤原さんがリリースしたCD『in DUB with LUV』(2011)のジャケットのアートワークにホセ・パルラの作品を使っていますね。

ホセ・パルラ 《Calligraphy Pigment Experiment》 2011年
藤原さん所蔵の原画
藤原ヒロシ『in DUB with LUV』 2011年

F それも、たまたまホセのところに遊びに行った時に、彼が制作していた作品で、「僕のCDのジャケットに使いたんだけど」って言ったら、その場ですぐに「いいよ」って。ホセは作品に関することでも、勿体つけたり、面倒なことを言ったりしない人なんです。作品の使用にいちいちうるさいどこかのアーティストと違って(笑)。

ホセ・パルラ「Home Away from Home」

会期|2025年6月20日(金) – 7月27日(日)
会場|ポーラ ミュージアム アネックス[東京・銀座
開館時間|11:00 – 19:00[入場は18:30まで]
休館日|会期中無休
観覧料|無料
お問い合わせ|050-5541-8600(ハローダイヤル)  

 

■同時開催
ホセ・パルラ「Home Away from Home」

会期|2025年6月20日(金) – 8月9日(土)
会場|KOTARO NUKAGA ROPPONGI[東京・六本木
開廊時間|11:00 – 18:00
休廊日|日・月曜日、祝日

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編集者・美術ジャーナリスト

鈴木芳雄