Courtesy of Gucci

京都市京セラ美術館にて、100年以上にわたるグッチの歴史を俯瞰する展覧会「Gucci Cosmos」が開催されている。2023年4月に上海、同年10月にロンドン、この10月から始まった京都での本展が3都市目の巡回となる。英国の著名なコンテンポラリーアーティストであるエス・デヴリンが考案とデザインを、イタリアのファッション研究家・評論家のマリア・ルイーザ・フリーザがキュレーションを手がけている。京都が選ばれたのはブランド創設の地であるフィレンツェと50年以上にわたり姉妹都市であることから。イマーシブな仕掛けを通してブランドの歴史を辿る構成は各都市とも同じだが、その地に合わせた趣向が凝らされている点に注目したい。京都市京セラ美術館の本館と新館を会場とする大規模な展覧会を、3つのポイントから見てみたい。

1920年代からの貴重なアーカイブが来日

グッチの製品が日本で初めて紹介されたのは1964年。その後、1972年にアジア初のショップを銀座の並木通りにオープンするなど、本展覧会はブランドの日本上陸60周年を記念するタイミングの開催でもある。フィレンツェにあるグッチのアーカイブミュージアムからは、初めて日本で扱われたバッグなど貴重な作品も数多く展示。グッチのアーカイブを所蔵するパラッツォ・セッティマン二のコミュニケーションディレクターであるガブリエレ・ジョルジーニは「アーカイブミュージアムというと過去のピースを保存する場として捉えられがちだが、誰がそれを見るかによって未来を投影するものに変わる」と語っている。歴史あるブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任する者がそのアーカイブをどう理解するか、それを通してどのように未来を作れるか。つまり未来と出合える場所でもあるのだ。

Courtesy of Gucci

「Time Maze」と名付けられた展示室はあえて作品を制作年順で展示せず、グッチの過去、現在、未来をそれぞれの視点で感じ取ることができる空間になっている。
鑑賞者がショーウィンドウを眺めたり、引き出しを開けてみたりするうちに、アーカイブピースと出会う構成に。クローゼットの中を探検しているような空間で、さまざまな年代のクリエイティブ・ディレクターがどのように未来を見出したのかに思いを馳せてみたい。

Courtesy of Gucci

グッチと赤い糸

2016年、グッチのアートプロジェクトに現代美術家の塩田千春が起用された。1部屋をまるごと赤い毛糸で覆い尽くした作品は“赤い糸”がテーマだった。そのとき、塩田に直接、話を聞く機会があった。塩田は「赤い糸で囲まれた部屋にいると、まるで血管のように感じる」と表現。そのムードは2024年のいまもグッチのDNAに息づいているようだ。本展覧会で「Red Threads」と名付けられた空間はグッチにとって象徴的な色、“赤”にフォーカス。現在のクリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノもデビューシーズンから「グッチ ロッソ アンコーラ」と名付けた深い赤をシグネチャーカラーとして採用している。

Courtesy of Gucci

日本の言い伝えからインスピレーションを得て、運命の相手と目に見えない赤い糸で結ばれているという伝承を思わせる部屋に。年代を越えて、その時代のシグネチャー的な赤をまとったグッチの作品が一堂に会する場は圧巻だ。途切れることなく新陳代謝を繰り返し、常にエネルギーに満ち溢れているブランドの息吹を感じたい。

Courtesy of Gucci

京都市京セラ美術館だけのコラボレーション

本展では開催都市にちなんだ特別な展示室も見逃せないポイントのうちのひとつ。京都市京セラ美術館を事前に訪れたアーティストのエス・デヴリンがインスパイアされたのは、同館所蔵の日本画の数々だったそう。中でも日本における余暇や屋外での楽しみにちなんだ作品とグッチのアーカイブピースとを合わせた「Leisure Legacy」の空間は、目を楽しませてくれる仕掛けに。

右奥|中村研一 《瀬戸内海》 1935年 京都市美術館蔵
Courtesy of Gucci

丹羽阿樹子《ゴルフ》の、和装でプレーを楽しむ女性の絵画とGGパターンのゴルフセットの展示は、まるで作品が対話をしているような親密さを感じさせる。

奥|丹羽阿樹子 《ゴルフ》 昭和初期 京都市美術館蔵

そのほかに馬術、ピクニック、テニスなどのシーンを描いた作品とアーカイブピースの意外なマッチングを楽しめる。レジャーに興じる人々の、朗らかで優雅な時間を共有したい。

奥|菊池契月 《紫騮(しりゅう)》 1942年 京都市美術館蔵
Courtesy of Gucci

近年、ハイブランドのエキシビションが増える中、映像やVR、インスタレーションを駆使した没入型の展示空間は従来の展示の枠にはまらないような工夫に満ちていた。クラフツマンシップを愛する京都でグッチのものづくりの原点に触れてみたい。

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グッチ日本上陸60周年記念展 『GUCCI COSMOS』

会期|2024年10月1日(火) – 12月1日(日)
会場|京都市京セラ美術館 本館 北回廊1階、新館 東山キューブ
開館時間|10:00 – 18:00[最終入場は17:00まで]
休館日|月曜日[祝・休日の場合は開館]

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編集者・美術ジャーナリスト

鈴木芳雄