坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開いていました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ! 今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

無料で見学できるパリの美術館

パリに引っ越してから、休日の予定がない日は美術館に行く習慣ができました。

どこにでも美術館があるし、無料で入館できるところも多い。買い物途中や疲れた時など、美術館に入ると中庭があって、ゆっくり休めるベンチもあったりするので、パリジェンヌたちにとっても静かな癒しの場だったりもします。

フランスは芸術愛の強い国で、パリは芸術の都とも呼ばれ、大きなものから小さなものまで合わせて140以上の美術館、1000以上のギャラリーがあると言われています。ヴィクトル・ユゴー、バルザックなど、彼らの家をそのまま美術館にしている「邸宅美術館」というものも多く、芸術家たちの暮らしをまるごと感じることができます。その迫力たるや素晴らしいこと!

子供の学校ではフランスの歴史や神話の授業があるし、授業中に美術館に行って勉強することも日常。日常の学びの中にアートがあるので、誰にでも芸術や建築、文化が平等に開かれているというのは、とても興味深いものです。またポンピドゥー・センターなどの超人気美術館ですら、毎月第一日曜は無料(期間限定のところもあります)で入場できるという嬉しいシステムがここにはあります。これもまた、芸術は全ての人の為にというフランスの考えによるものだそうです。この第一日曜日のことは観光客だと意外にご存知ない方も多いと思いますので、旅行の行程とあうならぜひ、美術館の日にしてくださいね。




常時入館無料の美術館・博物館・記念館


そんなわけで今回は、私がこれまでに訪れた常時入館無料のパリの美術館・博物館・記念館の見どころについてお伝えしたいと思います。個人的な評価として『夏水ポイント』を★(おすすめ度:1〜3)で入れておりますので参考にしてくださいね。

また、まとめ方としては、パリ市民がよく使う「右岸」と「左岸」という言葉で区分していますが、もしかしたらあまり日本では馴染みがないかもしれません。ですがこの区分け、パリ市民はほんとうによく使うんですよね(苦笑)。「今日、右岸にいたんだけど疲れたわ、左岸に戻ってくると安心する〜」とか。考え方は簡単。セーヌ川界隈の北側を右岸 Rive droite(リヴ・ドロワ)、南側を左岸 Rive gauche(リヴ・ゴーシュ)と分けているんですが、要は、東京でいえば、右岸は新宿や渋谷のような活発な雰囲気の若者の場所、左岸は銀座や日本橋のように落ち着いた大人の場所というイメージと捉えてくださいませ。




<右岸 マレ地区方面 >


1)カルナヴァレ美術館(夏水ポイント:★★★)

歴史好きな方はまずマレ地区にあるカルナヴァレ美術館を訪れてみてください。パリ市歴史博物館とも呼ばれるように、パリ市史上の出来事、その当時の生活を描いた絵画などを観ることができます。美術館の建物は歴史ある邸宅で、外観も内装も当時の装飾そのままで展示してあるので、建築・インテリア関係の方は必見の美術館です。

Musée Carnavalet
23 Rue de Sévigné, 75003 Paris

カルナヴァレ美術館 舞踏の間

2)コニャック=ジェイ美術館(夏水ポイント:★★)

パリの中心にある百貨店「サマリテーヌ」の創業者夫妻のコレクション、18世紀の絵画、彫刻から宝飾品、磁器や装飾品といった家具調度品などを観ることができます。中庭の奥の建物は16世紀に建てられた建造物です。カルナヴァレ美術館と近いのでセットで楽しんでくださいね。

Musée Cognacq-Jay
8 Rue Elzevir, 75003 Paris

3)ヴィクトル・ユゴー記念館(夏水ポイント:★★)

ヴィクトル・ユゴー記念館は、フランス人作家ヴィクトル・ユゴーが家族とともに暮らした自宅を美術館としてオープンさせたもので、パリで最も古い広場であるヴォージュ広場を取り囲む邸宅の中にあります。彼の作品にまつわる展示物だけでなく、装飾美術家の才能があったユゴーの独特の内装も見どころです。記念館の中には、ヴィクトル・ユゴーが亡命先のガーンジー島で暮らした部屋や、後に暮らしたパリの別のアパルトマンの部屋が忠実に再現されていて、彼の独特なインテリア装飾をそれぞれの部屋で観ることができます。 天気の良い日は、観覧した後にぜひヴォージュ広場でピクニックしてくださいね。

Maison de Victor Hugo, place des Vosges 
6 Pl. des Vosges, 75004 Paris

ユゴーの部屋は柄合わせがすごい

4)アトリエ・ブランクーシ(夏水ポイント:★)

アトリエ・ブランクーシはポンピドゥー・センター広場の一角にあります。ロダンの工房で働いたブランクーシはルーマニア出身の彫刻家で、このアトリエでは天井から明るい光が差し込む心地よい空間で彼の作品を観ることができます。ポンピドゥー・センターとセットでいかがでしょうか。

Atelier Brancusi
Place Georges Pompidou 75004 Paris





<右岸 モンマルトル・オペラ方面 >


5)ロマン主義博物館(夏水ポイント:★★★)

ロマン主義博物館は閑静な住宅街の中にあり、オランダ人画家アリィ・シェフェールの邸宅だった建物を美術館にしたものです。建物の間の細い道を奥に進むと現れるまるで田舎の一軒家のような素朴な雰囲気を持つ美術館です。小さな美術館ですが、他の美術館にはない素朴なかわいらしさが魅力的。天気の良い日に中庭のカフェでのんびり一息がおすすめです。

Musée de la Vie romantique
16 Rue Chaptal, 75009 Paris 

素朴でかわいらしいロマン主義博物館

6)セルヌスキ美術館(夏水ポイント:★★)

セルヌスキ美術館は銀行家セルヌスキ氏の邸宅が美術館になったもので、彼がアジアを旅してコレクションした陶磁器や絵画や土器などの美術品が展示されています。モンソー公園沿いにあるので、公園散歩と一緒にどうぞ。

Musée Cernuschi  
7 Av. Velasquez, 75008 Paris 



7)フラゴナール香水博物館(夏水ポイント:★)

オペラ座から徒歩数分のところにある香水メーカーのフラゴナールの美術館です。 香水の歴史や製造過程をガイドの説明とともに観ることができます(ガイドツアーの時間は事前に確認してください)。香水が好きな方にはおすすめ。

Musée du parfum Fragonard
9 Rue Scribe, 75009 Paris





<右岸 凱旋門方面 >


8)パリ市立プティ・パレ美術館(夏水ポイント:★★★)

プティ・パレは1900年のパリ万博の際に作られた建物で、万博終了後に美術館になりました。展示品は古代から20世紀まで幅広く、ドラクロワやセザンヌなど有名画家の絵画、彫刻、宝飾品や調度品など多岐にわたります。中庭のテラスを囲む建物の装飾と形状が美しく、天気の良い日におすすめです。

Petit Palais  
Av. Winston-Churchill, 75008 Paris

パリ市立プティ・パレ美術館

9)パリ市立近代美術館(夏水ポイント:★★)

パリ市立近代美術館はエッフェル塔が見える位置に立つ美術館です。広々とした空間に、様々なジャンルの絵画やオブジェが展示されています。おすすめはマティスの展示室。パリのダンスの展示室でダンスをしましょう(笑)。20世紀美術が好きな方におすすめ。

Musée d’Art Moderne de Paris 
11 Av. du Président Wilson, 75116 Paris

パリ市立近代美術館 マティス《ダンス》の前で

10)バルザック記念館(夏水ポイント:★★)

バルザック記念館はフランス人作家バルザックの住んでいた家が美術館となっており、書斎や肖像画、ゆかりの品などが展示されています。美しい庭からはエッフェル塔が見えます。

Maison de Balzac
47, Rue Raynouard, 75016 Paris



11)エヌリー美術館(夏水ポイント:★★★)

エヌリー美術館はアジアの芸術品を展示する美術館で、ギメ東洋美術館の別館とも呼ばれています。モンソー公園敷地内にある邸宅の中に、アジアの調度品や陶磁器、絵画などが美しく展示されています。毎週土曜のガイド付きツアーのみ要予約です。

Musée d’Ennery
59 Av. Foch, 75116 Paris




<左岸 リュクサンブール・モンパルナス方面>


12)ブールデル美術館(夏水ポイント:★★)

ブールデル美術館はロダンのアシスタントにもなったアントワーヌ・ブールデルの彫刻美術館です。パリの主要駅の一つであるモンパルナス駅から徒歩5分ほどの場所にあるので、電車までの時間に少し早く行って観るのもおすすめです。中庭に飾られた彫刻も美しく、晴れた日は屋上のカフェのテラス席も気持ちよく、穴場的美術館です。

Musée Bourdelle
18 Rue Antoine Bourdelle, 75015 Paris 

ブールデル美術館の中庭

13)ザッキン美術館(夏水ポイント:★)
ザッキン美術館はロシアの彫刻家ザッキンの作品を展示する美術館です。彼の自宅兼アトリエを美術館にしたもので、リュクサンブール公園に近いので公園に寄る時におすすめです。

Musée Zadkine
100 bis Rue d’Assas, 75006 Paris



14)キュリー博物館(夏水ポイント:★)

キュリー博物館は物理学者・化学者であったキュリー夫妻の研究内容や資料が展示されている博物館です。建物は実際に夫妻が研究を行っていた場所で、放射線について広く知ってもらうために博物館となっています。

Musée Curie
1 Rue Pierre et Marie Curie, 75005 Paris



15)パリ解放博物館(夏水ポイント:★★)

パリ解放博物館は、1944年8月25日のナチス・ドイツ占領下からのパリ解放75周年を記念して開館した、第二次世界大戦中のフランス軍の歴史を紹介する博物館です。当時のまま残る地下司令部を観ることができ、ヴァーチャル・リアリティ(VR)で仮想体験できるサービスも。ただ、フランス語ができないとやや理解するのが厳しいかもしれません。

Musée de la Libération de Paris 
4 Av. du Colonel Henri Rol-Tanguy, 75014 Paris 



16)警察博物館(夏水ポイント:★)

警察博物館は17世紀から今日までのパリ警察の歴史を実際の警察署の中で観ることができる博物館です。さまざまな時代の警察の制服や、フランスの歴史で有名な手紙や電報などの文書、武器や道具、写真などを観ることができます。私は、フランス革命中に死刑囚を処刑するために使用された巨大なギロチン台を観に行きました。ちょうど頭が入る幅の台になっていて、大きく鋭利で重そうな刃が吊り下げられているのです。観るための目的ながら怖くて近寄れませんでした。歴史をリアルに感じるってこういう時なのかもしれません。

Musée de la Préfecture de Police
4 Rue de la Montagne Ste Geneviève, 75005 Paris



17)レジオン・ドヌール勲章博物館(夏水ポイント:★)

レジオン・ドヌール勲章博物館はサルム館という邸宅に作られた世界中の勲章を見ることができる博物館です。オルセー美術館の隣にあるのでオルセーに行った時に一緒にどうぞ。

Musée de la Légion d’honneur
2 Rue de la Légion d’Honneur, 75007 Paris 





特定日に入館無料になる美術館


特定日だけ入館無料となる美術館について、以下にリストとしてまとめました。ただしこの日は多くの美術館で事前にネットで予約が必要となっておりますので、ご確認ください。人気の美術館では予約はすぐに埋まってしまいますので、渡仏予定が決まったら即アクセスを。また予約不要の美術館の場合は、無料開放日は逆に入館するのに並びますので、時間に余裕をもって訪れてください。


<毎月第一日曜日が無料>
※入館無料となる時期や入館予約の要不要は変更されることがありますので事前に確認してください。

ポンピドゥー・センター(国立近代美術館) Centre George Pompidou 
オルセー美術館 Musée d’Orsay  
オランジュリー美術館 Musée de l’Orangerie
ピカソ美術館  Musée Picasso Paris 
ギメ東洋美術館  Musée national des arts asiatiques – Guimet  
国立技術博物館  Musée national des arts et métiers  
ギュスターヴ・モロー美術館  Musée national Gustave Moreau 
ウジェーヌ・ドラクロワ美術館  Musée national Eugène Delacroix 
国立移民史博物館  Musée national de l’histoire de l’immigration 
ケ・ブランリー=ジャック・シラク美術館 Musée du quai Branly – Jacques Chirac 
クリュニー美術館   Musée de Cluny National du Moyen Age 
狩猟自然博物館   Musée de la Chasse et de la Nature 
郵便博物館  Collection Musée de La Poste Paris 
ロダン美術館  Musée Rodin
パンテオン  Panthéon 
コンシェルジュリー Conciergerie 
サント・シャペル  Sainte-Chapelle 
シテ建築遺産博物館  Cité de l’architecture et du patrimoine  
(順不同)


<毎月第一金曜日が無料>

ルーヴル美術館  Musée du Louvre  
・午後6時から9時45分まで(7・8月を除く) 
なお10月〜3月の期間のみ、毎月第一日曜日も無料


*)常設展の入場は無料でも、特別展開催中は有料の場合もあるので、訪問の際は公式サイトやパリ観光局のサイトなどで対象施設を確認しましょう。冬の時期だけ無料など、季節によって変わる施設もあるので気をつけてください。

クリュニー美術館

建築遺産博物館は、建築装飾マニアにおすすめ


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さて次回は、私の人生の大イベント、「私の日本のお店の閉店」とその想いについてお話ししたいと思います。日本の「住まい」って特殊なんです。パリに来て、こちら側の考え方や市場を知って、住まいづくりと人生の豊かさとは何なのか、私の考えていることを日本の皆さんにぜひお伝えしたいと思っています。

では今日はこの辺で。


au revoir. à bientôt!

夏水



これまでの連載は、こちらから

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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を浴びる。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」、 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」、日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」(外観・内装の立て直し屋 として出演)等に内装デザイナーとして多数出演。

空間デザイン会社 夏水組
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