坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開店していました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ!今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

日常のルーヴル美術館

パリに訪れたことがなくても誰もが知っている”Musée du Louvre(ルーヴル美術館)”。我が家はパリ6区と呼ばれるエリアにあってセーヌ川に近いのですが、パリ最古の橋「ポンヌフ」をてくてくと渡って左に行くとそこにルーヴル美術館(以下、ルーヴル)があります。ほぼ徒歩で10分の距離なのです。

ポンヌフから眺めるルーヴル

実際に目にしたことがない方にはイメージがつきにくいかもしれませんが、ルーヴルはとてつもなく大きい美術館なので、パリを訪れたら一度は目にすることでしょう。地元民だとしてもタクシーで、自転車で、徒歩で、通り抜ける場所であり、そこを避けるのは難しいほどです。

さて、お伝えしたように我が家はルーヴルのご近所ということもあり、昨年早々に年間パスなるものを購入し、子供たちと予定のない日、もしくは雨の休日はルーヴルに行こうと決めて通っています。この年間パスを保有していると子供だけの実験的体験スペースに参加できたり、大人も一緒に模写をしに訪れたり、その準備として絵について学んでみたり、そんな楽しみを持つことができます。というわけで、今回は観光とは違う、地元民がこのルーヴルという場所にどんな風に触れ合っているかについてレポートします。




基礎情報

連日たくさんの人が来場
外壁には石像がたくさん
天井がすごい
この建物は全部ルーヴル


パリ1区セーヌ川の右岸にある世界最大級の美術館。1793年に開業、今年で231年目となります。延べ床は7万3000平方メートル。日本でルーヴルと同等にあたるのは東京国立博物館かと思いますが、こちらは1872年開業152年目で7万8000平方メートル。年間のルーヴル来館者は1000万人近く、東京国立博物館は250万人だから4倍です。これって、何が違うのか…もしかしたらナポレオンの力なのかもしれません(笑。

ナポレオンのことはみなさんだいたいご存知かと思いますが、フランス革命後近隣国との戦争が絶えない中、ナポレオンは連勝する度に戦利品をルーヴルの美術コレクションにしてきました。1803年には「ルーヴル美術館」ではなく「ナポレオン美術館」と呼んでいた時期があったそう。そんなナポレオンですが、実はイタリアからは強盗と呼ばれているそうです。なぜかって、ルーヴルにはイタリアからの美術品が多数ありますが、その多くがナポレオンがイタリアに勝利した時に貴重な美術品を戦利品として持ち帰ったためです。この中にルーヴル最大サイズの絵画と言われている「カナの婚礼」もあります。最大の大きさの絵画、どうやって持って帰ったのか気になるところですが、勝っては持ち帰りルーヴルに収集してきたナポレオンのおかげで、今のルーヴルのコレクションがあるのです。



年間パス「amis du Louvre 」

年間パスの名称は『ルーヴルの友達』

そんな素晴らしいフランスが誇る芸術品の宝庫であるルーヴルがご近所にあるということ。だったら年間パスを手に入らない理由はないだろうと思い、まずは申請準備として調べてみました。

年間パスの名は「amis du Louvre」、”ルーヴルの友達” という意味です。年会費は  大人ひとり80ユーロ 、大人ふたりで120ユーロ。子供は無料なので120ユーロで購入すれば、我が家の場合家族4人で好きな時に行けるとのこと。素敵すぎます!そして申し込みについてもネットで申請してクレジット支払いだけ。承認を受けた後に郵送を待っていると1ヶ月後に届くということもあるらしく、近くに住んでいるので受付に取りに行ってもよいかと聞いたところOK。通常は郵送の選択だけらしいので、これが海外への郵送だったら尚更時間がかかるかもしれませんね。なんて言いつつ私の場合は、ネットでの決済後に直接ルーヴルに受け取りに行ったら、その日に発行されて今日からどうぞ、ですって!素晴らしい(笑。

連日、凄い数の人が世界中から集まり、雨の日も猛暑の日も ”ピラミッド” の周囲に入場する人が並んでいるものだから、そもそも混んでいる場所や行列が嫌いな私は近寄り難いルーヴルだったのですが、このパスを手に入れると専用入口から並ばずに、予約無しではいれます(ちなみに、 ”ピラミッド” の周囲の行列ですけど、あれって実はチケット予約をしていない人たちということではないのですよね、チケットの予約をしてもあの列に並ばなければならないのです。はい、それがフランスです)。

連日、入場口にできている行列

年間パス保有者のための入口

「amis du Louvre」の会員特典はまだあります。季刊誌が届いたり、レセプションへの招待、イベントの割引、ルーヴルの書店やレストランでの飲食で割引、アブダビとフランスのランスにあるルーヴルも入館料無料、グラン・パレ、オルセー美術館、ポンピドゥ・センターの3つの美術館年間パス割引、英国ロンドン V&A:ヴィクトリア&アルバート博物館など様々な美術館とも連携しているので様々な割引が使えるそうです。



パスを実際に利用して


今月で年間パスを入手してから半年が経過するのですが、これまで日中に館内に入ったのは7回。金曜日の18時からは無料でお友達を連れていけるのですが、夜間に館内入ったのが3回なので、合計10回。おそらくこのペースで行くなら一年で20回近く行くことになるでしょう。

そういえばこのパスのちょっと斜め上の使い方にはなりますが、ルーヴル横のチュイルリー公園でピクニックしている時、トイレに行きたくなりルーヴルに入ったことがあります(苦笑。それくらいこのパスがあれば簡単ですんなり入れます。夏の暑い日の避暑地かわりにも使えそうですね。うふふ。

しかし、実はこのパスを持っていても未だ全ての展示室を観ることができてはいないのです。子供と一緒に行くので、集中して観ることができるのはまあ3時間程度。今日は「リシュリュー翼」の2階、次回は3階というように進んでいますが、工事している箇所もあり、全館を到達するのに1年まるまるかかりそう(作品数で行けば、余裕で10年はかかるかもですが)。一年かけてルーヴルの歴史や背景を作品と一緒に子供と学ぶ、素晴らしいですね。



ルーヴルが親子のアート時間へ


以前の投稿でもお伝えしましたが、フランスでは子供のアート教育が盛んです。娘の中学校ではエジプトの歴史の授業中にルーヴルに行き、実際のものを見て勉強。息子の小学校では美術の授業で本物を目の前に模写をしていました。

床に座り込んでスケッチ

スケッチのための椅子はルーヴルが貸してくれます

また、ルーヴルの ”Studio“ という子供のためのスペースでは常時ワークショップを開催してくれます。季節によってワークショップの内容は変わるのですが、私が子供と一緒に行った時は「Le Trésor de Notre-Dame de Paris(ノートルダム大聖堂の宝展)」を企画展でやっていたので、これに連動したワークショップが開催されていました。

ルーヴル・スタジオでのワークショップ

ナポレオンの戴冠式のパズルと、王冠の宝石を飾るワークショップ。戴冠式は1804年12月2日、パリのノートルダム大聖堂で行われたものですが、有名な歴史絵画なので、私自身が既に記憶していたものを子供と絵画の中の人物、どこに誰がいて、どんな顔をして誰を見ているか話しながらパズルを完成。完成した後は、やっぱり本物を観に行こうとStudioから出発して「ドゥノン翼」2階の「19世紀フランス絵画」の部屋に向かいます。到着して子供達と驚いたのは、絵画の大きさ、さっきまで触っていたパズルの何百枚分もあるこの大きな絵画でもう一度、人物や背景を観られる楽しみは格別です。

ナポレオンの戴冠式の絵画はルーヴルの所蔵作品の中で2番目に大きな絵画だそうで、縦6.3m 横9.3m、外に持ち出すことが難しいため、他の美術館への貸し出しはなく、ルーヴルでしか見られないそう。60平米の大きく重い絵を隅から隅まで味わいながら観る子供達の目は輝いていました。本や小さなパズルで見るのと、約60㎡の本物を観るのとは、全く異なる経験ですよね。

《Couronnement de l’Emoereur et de l’Imperatrice(ナポレオン一世の戴冠式)》の前で

また、別の日には、息子がミイラの絵本を学校で教えてもらって家でその話をしていたので、本物のミイラを観に行こうと古代エジプトの「シュリー翼」に行きました。本物のミイラを目の前にして、息子が怖がるかと思いきや「Bonjour Momie!」とミイラに手を振っていました。それ以外にも、木棺の文字が面白いねと行っているうちに絵に描いて実際にその文字を写してみようとなり、ベンチに座って模写。彼が描いたオシリスの絵はスポンジボブみたいでしたが、それでいいのだと私は思います。

本物のミイラにご挨拶

子供にもわかりやすい展示の工夫

建築としてのルーヴルのすすめ


「パリの美術館ってたくさんあって、どこから行けばいいかわからない」とよく聞かれますが、私としては、まずはルーヴルです。時間軸でざっくり大まかにいうと、ルーヴルは印象派以前まで、 オルセーは印象派あたりから20世紀初めまで、ポンピドゥーは近現代芸術中心に、という区分けになるかと思いますが、 歴史と文化をセットで観られるのはルーヴルだと思います。紀元前のものまで観られますから。そして何よりも、フランスだけでなく、世界中の 全ての人類が生み出した美しいものが、フランスの王室とナポレオンの収集によって集められているのです。

それ以外にも展示されている美術品はもちろんなのですが、私は建築物そのものが芸術品だと思っています。美術館になるまではフランス王家が利用していた建物で、12世紀に城塞として建てられたものが改築を繰り返し、16世紀にルーヴル宮殿となりました。その後、アンリ4世、ルイ13世などの歴代の王により3世紀近くにわたって宮殿として改築を重ねてきたので、バロックとルネサンス様式が入り混じった建築物となっています。ルイ14世がヴェルサイユ宮殿に移動する1678年まで、ルーヴル宮殿としてフランス王家が利用していたのです。

その後ルーヴル宮殿は王室美術品コレクションの収蔵場所となり、1801年に美術館となりました。1980年代には「大ルーヴル計画」として、展示スペースを2倍して大幅な改築を実施し、中国系アメリカ人イオ・ミン・ペイ氏の設計で、メインエントランスとしてガラスのピラミッドを中庭に設置しました。ルーヴルの歴史についての展示室もルーヴル美術館の中にありますよ。ご興味あればぜひ、訪れてみてください。



ルーヴルとデジタル


そうそう、最近のデジタル化によってルーヴルに行かなくてもバーチャルでルーヴル体験できることはご存じでしょうか?おすすめはナポレオンのサロン、天井まで仕様が観ることできるのでぜひアクセスしてみてくださいね。
バーチャルツアーはこちらから。

ナポレオンのサロン
ナポレオンの食堂

あと、ルーヴル美術館のコレクションはこちらからも観ることができます。残念ながら英語とフランス語しか表記選択がないのですが、私のお気に入りは「textile divers」のカテゴリー。あとは「japon」も是非検索してみてください。日本の工芸がフランスでどれだけ評価を受けていたのかを知ることができますよ。

「ルーヴルコレクション」(https://collections.louvre.fr)から



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さて次回は、「パリで無料で入場できる美術館」をご紹介したいと思います。 パリ市が運営する美術館や、毎月第1日曜日に無料となる美術館(一部土曜日)がここパリにはたくさんあります。円安厳しい昨今、なるべくお金を使わずに芸術に触れたいという方、お見逃しなく。。。


では今日はこの辺で。


au revoir. à bientôt!

夏水



これまでの連載は、こちらから

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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。

空間デザイン会社 夏水組
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