坂田夏水 / Natsumi Sakata
空間デザイナー。座右の銘である「やるかやらないか。やる!」を実践していたら、気づけばパリの6区の片隅で子育てしながらお店を開店していました。失敗したとしても死ぬほど困ることじゃない、壁紙に悩んだって貼り直せばいいだけ!今日も私は、朝からパリの街を駆け抜けています。

パリの蚤の市

パリの観光本に必ずといっていいほど掲載されている「Marché aux puces(蚤の市)」。Puces(ピュス)はフランス語で、誰にとっても好きになれないであろう、あの小さな生物の ”蚤(ノミ)” を意味するのですが、蚤がついていそうな古着や古物が集まっていることと、たくさんの古物から掘り出して見つける蚤のよう、という様を示して「蚤の市」と呼ばれているそうです。

ゆっくり見て回ると1時間はかかります

少し調べてみると、19世紀後半にパリの都市整備が行われた際、退去命令を受けた廃品回収業者が、当時パリ市の境界線であった城壁の門の外側に集まり、勝手に品物を並べて売買し始めたのが「蚤の市」の始まりであるとのこと。 皆さんもよく耳にするであろう ”クリニャンクール” が、今でもパリの中では最大規模を誇っています。ちなみに英語では「蚤の市」のことを直訳して、蚤を意味する ”flea(フリー)” から ”フリーマーケット” と呼ばれていますよね。皆さんにとってはこちらの方が、親しみがあるかもしれません。

ちなみに、私は夫から時々「Ma puce(マ ピュス)」って呼ばれるんですが、フランス人にとっては ”可愛い蚤ちゃん” という意味らしいのです。とはいえ、私は蚤は嫌いだし「その呼び方はやめて」と何度となく彼にお願いするものの、フランス人にとって蚤は可愛いい対象で愛着のある大切なものの比喩として使わっているのだそう。私には全く理解できませんが、フランス人という存在が古く小さなものも愛でて大切にする、”蚤” も可愛い文化だからなのだからでしょうか…。

だけど、やっぱり嫌でしょう?蚤ちゃんって言われるの、理解できません!!(苦笑。



ブロカントとヴィドグルニエ


パリの「蚤の市」には、大きく分けると二種類あります。一つ目は「Brocante(ブロカント)」、二つ目は「Vide greniers(ヴィドグルニエ)」です。ブロカントは骨董を扱うプロでなければ出展が許されないため、品質も価格もしっかりしている反面、ヴィドグルニエは日本で言うフリーマーケットに似ていて、自治体や個人が不要になったものを安価で売っているという違いがあります。

ブロカントはパリの北と南で開かれる2箇所が有名です。パリ北部では、先ほどもお伝えした、パリでは一番有名な「クリニャンクール」、パリ南部では「ヴァンヴ」で毎週末開催されています。業者は登録制で、簡単には出展できません。長年そこで商売をしているプロがいるのです。クリニャンクールは常設店舗もあり、大型家具やアートも多数、高価な掘り出し物も見つけることができます。ヴァンヴは食器や衣類、アクセサリーなどが中心で、常設ではなく毎週末に大きな車を通りに乗り付けてお店を出すスタイル。私が住んでいる6区からはどちらもバスで30分程度。私は南のヴァンブのほうをおすすめします。クリニャンクールはプロには向いていますが、開催エリアの近隣の治安がすごく悪いので、駅までの道や少し地域を外れたところは旅行者にとっては少し気をつけなければいけないからです。

ブロカント:街頭、ライオン、銅像、なんでもある
クリニャンクールには常設のお店がたくさん
テーブルに所狭しと並ぶアンティークたち

一方でヴィドグルニエは、日々パリの至る所で開催されています。今週末は天気が良さそうだし、家族でパリを散歩しようという週末は、実はヴィドグルニエの開催スケジュールをチェックします(こちらのサイトで出店場所の確認が可能です)。ただ見に行くのも良いし、出展するのも簡単。ブロカントとは違って資格も登録も不要。申し込みをして事前に出店料を送金し、当日の朝に売りたいものをその場所に持っていってテーブルの上に並べる、これで全て準備完了。出店料はだいたい1区画で40€。テーブルひとつが10€です。

ヴィドグルニエ:パリの中心を通るリボリ通り
東京昆布のエプロンをつけているのは夫
出店しながらおしゃべりとカフェを楽しむマダム
世界中の骨董が集まる

私も去年、季節のいい夏の終わりから秋にかけて3回出店してみました。日本から持ってきたけど使わなかったもの、またはパリの店舗に仕入れたけど、売れなかったものなどがたまってきてどうしようと思っていたところ、パリに住んで長い友達から「ヴィドグルニエがあるよ」と教えてもらっての初挑戦でした。

子供服、本、食器など、その人にとっては不要物と思われるものだって、誰かにとっての宝物になる可能性があるものはたくさんあります。時にはフィギュアなどのコレクションを見せびらかしたい気持ちで出店する人もいます。要は別に売れなくてもいいんですけど、みんなに見せたいのですよね(笑)。道行く知らない人とおしゃべりを楽しんで終日エンターテイメント的な気分で参加する、それがヴィドグルニエなのです。話好きのフランス人っぽいですよね。

規模は様々ですが、小さくても50店舗、大きくなると300店舗がヴィドグルニエの通りに並びますので、開催しているのを見つけたらお散歩がてらぶらぶらして、宝物探ししてくださいね。店主とのおしゃべりを楽しむこの時間を、私はとてもお勧めします。



何を買う? どんなところを観る?


ちなみに、パリに遊びにきた友人・知人には、お土産用には銀食器をおすすめしています。日本ではなかなか手に入らないし、何よりも家での食事を豊かに彩ってくれるのです。銀食器を磨き、テーブルセッティングをする日常は、生活を美しくしてくれると私は信じています。こんな話もまたどこかでしてみたいですね。

食器は本銀とメッキ、ステンレスがあるのでよく見て買いましょう

せっかく足を運んだのであれば、指輪やネックレスなどのアクセサリーなど、日常のおしゃれに使えるアイテムも探してみてください。日本はジュエリーをたくさんつける文化がないので、アンティークのジュエリーってあまりないのですが、フランスでは200年前のジュエリーを普通に見つけることができます。その当時の職人が手作業で作った工芸品の美しいこと!値段はピンキリですが、ヴィドグルニエの場合だと、本物か偽物か判断できなければ高価なものは買わないことが鉄則です。

高価なものはケースに入っていて鍵がかかっている

あとは「これぞフランス!」というような美しい絵付けのティーカップセットやお皿をたくさん見つけることができます。クリスタルのシャンパングラスも息を呑むほど繊細で美しいのですが、帰りの荷物を詰め込みすぎて帰国した時に荷物を開けたら割れてしまった…ということもよく聞く話です。せっかく買ったパリの蚤の市のお土産が割れてしまうのは悲しいので、割れ物は買わないと決めるか、荷物をパンパンにせずにしっかり梱包をするか、どちらか決意を持って購入することでしょうか。

美しいお皿たちは柄を見て回るだけでも楽しめる

クリスタル系 “光り物“ 骨董品

割れる心配をしなくてもいいのが、フックや取手、ドアハンドルなどの金物類です。私は仕事柄、海外の古い建築金物を収集してしまう癖があり、20代の頃から何に使うのか分からなくても買い集めていました。しかし、人生の中でいつか使う場面があるわけで、私は自宅をフルリノベーションした時に、歴代の海外旅行時の金物を使うことができたんです!!そりゃ、大満足でした(笑。

私が蚤の市で見つけた宝物たち

言葉(フランス語or 英語?)ができなくたって、「私、未来のために買い付けしているのよ」という感じで大丈夫です。もちろんフランス語が喋れなくても楽しめます。お店の人はほとんどが英語OKなので、指差しや、これハウマッチ?で英語の数字さえ聞き取れることができれば、買い付け完了!

というもののやはり、フランス語が話せるともっと楽しい蚤の市。お店のおじさんたちはユーモアの溢れる素敵なジェントルマン。蚤の市に並べているものたちの歴史と、なぜこれが気に入っているのかという話を語ってくれますし、値引き交渉はフランス語の方が上手くいきますよ。簡単なセンテンスでもいいので、ぜひ挑戦してみてくださいませ。



蚤の市の楽しみ方


フランスの古く小さなものも愛でて大切にする文化。日本でも昨今、中古の服を楽しめる文化が、私の世代あたりからはようやく理解のある方が増えてきましたが、それ以上の年齢の方はやはり「中古はいやよ」という人も多いですよね。フランスにおいては新しいものしか買わないというのは珍しく、親から引き継いだ家具や食器、絵画など、どこの家にもありますし、新しい家具よりも古い家具の方が価値あるとされています。実際に日本ではあまり信じられないかもですが、家も古い家の方が家賃が高いのですよ。新しいものよりも古く長く愛されたものの方が価値が高い。それがフランス。そしてそんな文化の一端を気軽に垣間みることができる「蚤の市」。是非一度足を運んでいただけたら嬉しい限りです。今年は、この「蚤の市」を私と一緒に(オンライン上ではありますが)お散歩してもらえるような企画も考えています。その時にまた、買うものをどんな風に選んだらいいのか?などのエッセンスをお伝えできたらと思います。


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さて次回は、ほぼ誰もがご存じであろう「 Musée du Louvre(ルーブル美術館)」についてお伝えしたいと思います。家が近所なこともあって、私はこちらの年間パスを持っているのですが、子供たちとテーマを持ってこの美術館に日常としてお邪魔しているのです。子供だけの実験的な体験スペースに参加できたり、一緒に模写をしに行ったり、その準備として絵について学んでみたり。

観光とは違うこのルーブルという場所をレポートさせてください。

では今日はこの辺で。

au revoir. à bientôt!

夏水


【運営スタッフより緊急のお知らせ 】
夏水さんがライヴで案内する「パリの蚤の市」。オンライントークライヴ開催
『お宝探し!パリのオススメ蚤の市「ヴァンヴ」を夏水がご案内』

→ 現地雨天のため、残念ながら中止順延となりました。ご注意ください(3月17日9時30分配信)。


これまでの連載は、こちらから

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● 坂田夏水(さかたなつみ) さんて、こんなひと。

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。
アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社として夏水組設立。女性の視点によるリノベーションや内装デザインで注目を集める。その他、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン等を手掛ける。DIYやセルフリノベーションに関する書籍を多数執筆。

【メディア出演】
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」 フジテレビ系列「セブンルール」「めざましテレビ」 日本テレビ系列「幸せ!ボンビーガール」外観・内装の立て直し屋 として出演 等に内装デザイナーとして多数メディア出演。

空間デザイン会社 夏水組
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