2025年、私たちはどんなアートに出会えるのでしょう。漫画家・コラムニストの辛酸なめ子先生がナヴィゲートしてくれました。浮世絵の版元として、お江戸の文化に貢献した蔦屋重三郎、抽象絵画の先駆者にしてスピリチュアルなメッセージを発してくれるヒルマ・アフ・クリント、さらにエジプトの王たちから横尾忠則まで。今年は、愛の日本美術、心の西洋美術に会えるでしょう。
ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト
日本人はツタンカーメンとかクレオパトラとか古代エジプト好きが多いですが、「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」展ではこれまで開催されてきた数々の古代エジプト展でもなかなか見ないような珍しい作品が来日します。監修は気鋭のエジプト考古学者、 河江肖剰(かわえゆきのり)氏。展示ではピラミッドをあらゆる角度からドローンで撮影し、3DCG技術を用いて再現した大迫力のピラミッド映像も観賞できるそうです。東京の代表的な巨大建造物である森ビルと、古代のビラミッドが融合した空間で、異次元にいざなわれます。
当時の人々のリアルな生活がわかる展示物も多く、あぐらをかいて何かを書く書記や、召使いがベッドメイキングをしている様子のレリーフ、アマルナ王朝の王宮の調理場の様子から、クフ王のものだと推測される頭部の像、ツタンカーメンの義理の母親ネフェレトイティ(ネフェルティティ)のレリーフなど、召使いから王族まであらゆる身分がモチーフとなっています。人によって誰に感情移入できるか変わってきそうです。
円安の今、作品が遠方から来てくれてありがたい展示です。
ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト
会期|2025年1月25日(土) – 4月6日(日)
会場|森アーツセンターギャラリー
ラムセス大王展 ファラオたちの黄金
古代エジプトの展覧会が充実している25年。続いて3月に東京・豊洲のラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyoで開催されるのは「ラムセス大王展 ファラオたちの黄金」展です。
古代エジプト史上、最も長くエジプトを統治したラムセス2世にまつわる貴重なコレクションをアジアで初公開。「最も偉大な王」にまつわる宝物なので見るだけでも良い運気を吸収できそうです。記者会見では展覧会監修者のザヒ・ハワス氏が、ラムセス2世は日本ではツタンカーメンやクレオパトラより知名度が低いことは知っているけれど、彼こそ「王の中の王」、と熱く推していたそうです。
目玉の展示物の一つ「ラムセス2世の石灰岩巨像の上部」を見ると、整った顔立ちで優しそうで、人格者であることが伺い知れます。エジプト国外で展示されるのは本展がはじめてだそうなので、遠い日本まで来てくれたラムセス2世の像を心から歓迎したいです。ラムセス推しが増える予感しかありません。
ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金
会期|2025年3月8日(土) – 9月7日(日)
会場|ラムセス・ミュージアム at CREVA BASE Tokyo(豊洲)
ヒルマ・アフ・クリント展
アート好きの聖地であるニューヨークのグッゲンハイム美術館で、2018〜19年に開催された回顧展で同館史上最多(当時)の60万人を動員したヒルマ・アフ・クリント。20世紀初頭に抽象絵画を創案した女性芸術家です。
スウェーデン出身のヒルマ・アフ・クリント(1862–1944)が他の抽象画家たちと違っているのは、精神世界やスピリチュアリズムに傾倒して作品を制作していたところ。抽象画だけでなくスピ系の元祖でもあります。今、彼女の展示が人気になるのは、癒しを求めている人が多いということなのでしょう。
ヒルマ・アフ・クリントは親しい女友達4人とスピ系のグループ「De Fem(5人)」を結成し、交霊術を行なってトランス状態で作品を制作していたそうです。彼女たちがチャネリングによって描いたドローイングは、独特な色使いで高次元の雰囲気が漂っていて、時代を超越した普遍的な魅力があります。今、あらためて彼女の作品と対峙することで、チャクラが活性化されたり、宇宙につながる回路が開いたりする人が出てくるかもしれません。
ヒルマ・アフ・クリント展
会期|2025年3月4日(火) – 6月15日(日)
会場|東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児
2025年、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)の主人公にもなった蔦屋重三郎(1750-1797)。書店を経営し、さまざまなヒット作品を手がけた出版プロデューサーのような存在です。
当時のグラビア写真集のような町娘の顔を描いた歌麿の「大首絵」や、江戸吉原のガイドブック『吉原細見』など、世の人々のニーズを察する才覚の持ち主だったようです。
中でもシュールさが群を抜いているのは《箱入娘面屋人魚》。蔦屋重三郎の依頼で山東京伝が手がけた黄表紙(絵入り小説)です。あらすじは、浦島太郎が愛人の鯉と深い関係になり、生まれたのが人魚の娘でした。縁あって平次という漁師のもとに嫁ぎます。平次は貧乏だったので、人魚は家計を助けるために遊女になりますが、当初は客に気持悪がられ、魚臭いとか言われてしまいます。でも、人魚をなめると寿命が伸びるという触れ込みで、体をなめられるプレイで人気になってお金を稼ぐ、という、笑いと感動と脱力がうずまく大人のおとぎ話。日本人の性の多様化は江戸時代にすでにはじまっていたのでしょうか。当時の本が展示されるので、江戸時代の出版人のセンスを間近で感じたいです。
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
会期|2025年4月22日(火) – 6月15日(日)
会場|東京国立博物館 平成館
■会期中、一部作品の展示替えあり
横尾忠則 連画の河
2023年に東京の国立博物館で開催された「横尾忠則 寒山百得」展の新作102点にも驚かされましたが、アラウンド90(アラナイ?)にして、ますます創作活動がさかんになっている驚異の芸術家、横尾忠則氏。
「横尾忠則 連画の河」展では、2023年から2年間に渡って制作された新作を公開。寒山百得シリーズと同時にさらに新作を描いていたとは、尽きせぬ才能とバイタリティに圧倒させられます。
今回の展示は、遠い昔に故郷の川辺で同級生たちと撮った記念写真のイメージを起点に描かれた連作。日々、アトリエを訪れる来客との対話からもヒントを得ているとのこと。横尾忠則氏の人間関係についても想像が広がります。
横尾忠則 連画の河
会期|2025年4月26日(土) – 6月22日(日)
会場|世田谷美術館 1階展示室
オーストラリア現代美術 彼女たちのアボリジナル・アート
宇宙や大自然とつながるアートといえば、「オーストラリア現代美術 彼女たちのアボリジナル・アート」も注目したいです。世界で最も古いと言われるアボリジナル・アートは現代に脈々と受け継がれ、大地のパワーをほとばしらせています。
近年、国際的なアートシーンでは、先住民族のアートが注目を集めているそうです。その中でも特にオーストラリアでは多くの女性作家が活躍しています。オーストラリアの自然、彼女たちの人生などをモチーフにした作品は、眺めると心身が充電できそうです。アボリジナルのコミュニティー出身の作家だけでなく、都市部に住んで、現代的な表現活動をしている作家も選ばれていて、バランスが取れた展覧会です。先住民族のアートに触れることで、環境問題への意識も高まります。
オーストラリア現代美術 彼女たちのアボリジナル・アート
会期|2025年6月24日(火) – 9月21日(日)
会場|アーティゾン美術館 6・5階展示室
江戸☆大奥
蔦屋重三郎展に続いて江戸コンテンツで盛り上がる東京国立博物館。
「江戸☆大奥」展では、江戸時代の隠された歴史ともいえる大奥の文化を垣間見ることができます。
厳格なしきたりや世継ぎへの重圧があったと言われる大奥。将軍の妻たちや御殿女中たちがせめぎ合い、光と闇が渦巻いていました。
でも当時のトップの女性たちが集っていたと思うと憧れを抱かずにはいられません。《千代田大奥 御花見》という作品は、女性たちが皆赤い着物姿でお出かけしている様子を描いていて、華やかさに目を奪われます。似ているようで微妙な差異があり、着こなしや着物の高級感で張り合っていたのだと推察します。大奥の緊張感が作品から伝わり、江戸の平和なイメージが変わりそうです。
特別展「江戸☆大奥」
会期|2025年7月19日(土) – 9月21日(日)
会場|東京国立博物館 平成館
■会期中、一部作品の展示替えあり
インド更紗[仮称]
素敵な布の服や雑貨を見つけたら、インド製だった…… そんな場面に遭遇することは多いのではないでしょうか。更紗とは、天然染料で模様を染めた布のことで、インドでは紀元1世紀頃から作られている、長い歴史を誇る伝統技術です。
世界屈指のコレクターが集めたインド更紗を展示。物語を描いたものや、草花など自然モチーフのものなど、ハイクオリティな布の質感と美しい図像が融合しています。赤い色が多用されているのは、魔除けの意味もあったのかもしれません。インドの更紗の肌触りを想像しながら見ると、化繊の服への違和感がよぎりそうです。
インド更紗[仮称]
会期|2025年9月13日(土) – 2025年11月9日(日)
会場|東京ステーションギャラリー
伊勢物語―美術が映す王朝の恋とうた―
恋多き平安貴族で和歌の名手、在原業平。『源氏物語』と並ぶ中世の名作が、在原業平が主人公とされる『伊勢物語』です。展覧会では絵画や書、工芸作品などが展示。
『伊勢物語』には和歌が約200首も収められているので、作品の世界に浸ることで雅な恋を疑似体験。恋愛離れしている現代人への時代を超えた鼓舞のエネルギーを感じられそうです。
『源氏物語』ブームの次は『伊勢物語』が来る…… そんな流れを期待したいです。
在原業平生誕1200年記念特別展 伊勢物語―美術が映す王朝の恋とうた―
会期|2025年11月1日(土) – 12月7日(日)
会場|根津美術館 展示室1・2・5
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