「LOVE ファッション—私を着がえるとき」展示風景 手前左から Christian Dior/ジョン・ガリアーノ《スーツ、チョーカー》 1997年秋冬オートクチュール、Christian Dior/クリスチャン・ディオール《イヴニング・ドレス》1951年春夏、Christian Dior/クリスチャン・ディオール《デイ・ドレス「シガール」》1952年秋冬、奥左から Jil Sander/ラフ・シモンズ 《ドレス》 2009年秋冬、Balenciaga/クリストバル・バレンシアガ《イヴニング・ドレス》1951年冬、《ウォーキング・ドレス》 1884年、《デイ・ドレス》 1865年 すべて京都服飾文化研究財団蔵

京都と大阪に行けばきっと何かが起こっている。しかも秋だ。服を着ることは自分も他人も愛することだったんだと気づく展覧会。それに注いだ情熱をあらためて目にする。着るだけではない。住むことへの情熱も。19世紀の京都が遺してくれた空間に20世紀の名作デザインを置き、21世紀が感動する。時間を超えることの恩恵、さらに空間を自在に行き来する。パリと東京と大阪、いつもは出合わない作品を会わせる企み。一方で永遠の探究がある。私たちはどこから来てどこへ行くのか。命とは記憶とは死とは何か。  

LOVE ファッション—私を着がえるとき

「衣食住」という。でも、重要な順で言えば、「食・衣・住」なのではないか。食べ物がなくて生きられなければ、衣服も住居もありえない。しかるに「衣」が前に出るのは身体を守る本能が先に立つのと、着るものによって自身のアイデンティティを確立するためなのか。
展覧会の会場を入ると、横山奈美の絵。画面いっぱいに描かれた「LOVE」。手書きの文字をネオンにして輝いている。そのネオンを輝かせる装置も克明に描かれる。輝くネオンが被服で装置が身体か。
展覧会タイトル「LOVE ファッション─私を着がえるとき」を象徴する作品。このように、現代美術と歴史的なコスチュームが絡み合いながらの展示である。
愛しいファッション、そこへの情熱。あるいはファッションを愛せよ。

「LOVE ファッション—私を着がえるとき」展示風景 横山奈美 《LOVE》 2018年 豊田市美術館蔵 © YOKOYAMA Nami, 2024

展覧会構成は全5セクション。

1. 自然にかえりたい
各時代に現れた動物素材や植物柄のファッションを展示する。自然と一体化する願望、畏怖や憧憬があるのだろうか。本物の毛皮を使わないエコファーのコートも含む。小谷元彦の作品で人間の毛髪を素材としたドレスも展示。

2. きれいになりたい
ときに偏執的ともいえる造形への欲望、それが衣服の流行をつくりあげてもきた。19世紀には例えばコルセットが身体美のために不可欠だった。クリスチャン・ディオールやクリストバル・バレンシアガのオートクチュール作品の魅惑。現代からは、山本耀司 やラフ・シモンズ(Jil Sander)も。

「LOVE ファッション—私を着がえるとき」展示風景 Comme des Garçons/川久保怜 左から《ドレス》《トップ、スカート》《トップ、スカート》《トップ、スカート》 すべて1997年春夏 京都服飾文化研究財団蔵

3. ありのままでいたい
自然体とは何だろうと考えさせてくれるミニマルなデザインの服を見る。そしていわゆる「下着ファッション」に至るまで。同時にヴォルフガング・ティルマンスのインスタレーションされた写真や女性のしぐさなどをリアリズムで描く松川朋奈の絵画も展示。

4. 自由になりたい
衣服はしばしば着る人のアイデンティティ、つまり、国籍、階級、世代、ジェンダーを託される。300年の時の中で性や身分を越境する主人公の変身譚である、ヴァージニア・ウルフは小説『オーランドー』(1928年)でアイデンティティの揺らぎを描いた。それに触発された川久保玲の仕事を見る。

5. 我を忘れたい
ある服を着たいという願望や実現は高揚感を与えてくれ、それは服によって魔法をかけられたようなもの。しかし、その思いはじきに色褪せ、また次の新しい服を求め彷徨う(ある意味、悦び)。そんな欲望をやどを替えるヤドカリに投影すべく、AKI IMONATA の《やどかりに「やど」をわたしてみる》の映像を見る。

なお、本展は2024年〜25年、熊本市現代美術館、東京オペラシティ アートギャラリーに巡回する。

AKI INOMATA 《やどかりに「やど」をわたしてみる ‒Border‒》 2010/2019年 京都国立近代美術館蔵 ©AKI INOMATA
「LOVE ファッション—私を着がえるとき」展示風景 AKI INOMATA 《やどかりに「やど」をわたしてみる ‒Border‒(東京)》 2015年 作家蔵 ©AKI INOMATA

LOVE ファッション—私を着がえるとき
会期|2024年9月13日(金) – 11月24日(日)
会場|京都国立近代美術館
開館時間|10:00 – 18:00[金曜日は10:00 – 20:00]入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜日 [ただし10/14, 11/4は開館。翌日火曜日休館]
■巡回
熊本市現代美術館 2024年12月21日(土) – 2025年3月2日(日)
東京オペラシティ アートギャラリー 2025年4月16日(水) – 6月22日(日)

Affinités(アフィニテ)

タカ・イシイギャラリー 京都は四条烏丸からほど近いところにある町家を改装したスペースだ。ここでは現在、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン、ジャン・プルーヴェという4人の巨匠の個人、あるいは共同のデザインによる家具の展覧会「Affinités(アフィニテ)」が開催されている。

「Affinités」展示風景 タカ・イシイギャラリー 京都 2024年9月14日 – 10月19日 Photo: 表恒匡 / Courtesy of Taka Ishii Gallery

150年前に建てられた町家に20世紀のモダンデザインの家具を置くということ。お互いに影響し合い、尊敬し、理想を共有していた4人は20世紀の建築とデザインに大きな足跡を残した。そして興味深いことにこの4人はそれぞれ違う形で日本と関わりを持ち、戦後の日本で、西洋と日本の架け橋となり、多大な影響を与えたのだ。
ル・コルビュジエとジャンヌレの思想は弟子の前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らに引き継がれ、その系譜は今も息づいている。

「Affinités」展示風景 タカ・イシイギャラリー 京都 2024年9月14日 – 10月19日 Photo: 表恒匡 / Courtesy of Taka Ishii Gallery

ペリアンは日本の伝統的な職人の技術を取り入れた。また、ミニマリズム、用の美など、プルーヴェの美学は日本の伝統工芸と通じ合うものがある。
美術館やヴィンテージファニュチャーギャラリーでこれらの家具を目にすることはある。しかし、このシチュエーションで見る機会はそうは無いだろう。町家のなんとモダンなことかと気づきもあり、これらの家具とお互いを引き立て合う妙。
古びるどころか、今も私たちを魅了し続け、触発してくれる。これは「モダンとは何か」の格好の教科書のような展示である。

「Affinités」展示風景 タカ・イシイギャラリー 京都 2024年9月14日 – 10月19日 Photo: 表恒匡 / Courtesy of Taka Ishii Gallery

Affinités(アフィニテ)
会期|2024年9月14日(土) – 10月19日(土)
会場|タカ・イシイギャラリー 京都
開廊時間|木 – 土曜日 10:00 – 17:30
休廊日|日 – 水曜日・祝日

塩田千春 つながる私(アイ)

塩田千春はベルリンを拠点に活動するアーティストだが大阪出身。故郷である大阪の美術館での大規模個展となった。この展覧会では、パンデミックを経験し気づいた「つながり」をテーマにしたいと考えたことを塩田は語っている。
もとより塩田は「生と死」という人間にとっての根源的な問題に向き合って作品を制作し続けてきた。「生きることとは何か」、「存在とは何か」。答えの出ない問いに向き合う。
無数の糸を張り巡らせるインスタレーション。ときにそれは鍵だったり、手紙だったりをも巻き込むこともある。それは人々の生きた痕跡であり、「記憶」として残されるもの。痕跡を糸で編み込むことで、「不在の中の存在」というテーマと向き合うものだ。そもそも、個々の人々の中に残されるだけで目には見えない「記憶」というものの存在を作品に託す。
「記憶」は、自分以外のなにものかとの「つながり」によって形成されていく。そんな「つながり」に3つの「アイ」、それは「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」を通じてアプローチしようとし、それで展覧会タイトルを「つながる(アイ)」とした。

塩田千春 《巡る記憶》 2022年 Photo: Sunhi Mang ©JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota

塩田千春 《巡る記憶》 Circulating Memories 2022/2024 中央が塩田千春さん

展覧会は天井から吊るされた赤いドレスの作品から始まる。それは不在の身体の影だろうか。ドレスも赤い糸で結ばれている。
白い糸と滴る水滴の作品もある。生命と記憶の循環を示すものだ。家の形に赤い糸が編まれた作品。これはまさに帰るべき場所。その先、「つながり」をテーマに集めた手紙がまるで赤い糸の中を舞っているかのような作品がある。
そんな大規模なインスタレーションも圧巻で素晴らしいが、学生時代の油絵があったりもして、30年以上のアーティスト活動の発表の軌跡となっている。初期の絵画は除き、その作品のほとんどに塩田が使う素材である糸が使われている。絡まる、ほどける、切れる、結ばれる。糸はあたかも人と人のつながりや関係を表す比喩なのである。

塩田千春 《The Eye of the Storm》 2022年 画像提供:バンコクアートビエンナーレ ©JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota


)塩田千春 つながる私(アイ)
会期|2024年9月14日(土) – 12月1日(日)
会場|大阪中之島美術館 5階展示室
開場時間|10:00 – 17:00[入場は閉場の30分前まで]
休館日|月曜日 [ただし10/14, 11/4は開館。翌日火曜日休館]

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館(旧仮称:大阪市立近代美術館)、この3つの大都市の「近代美術館」の収蔵品をテーマごとに選び抜き、展覧会に仕立てるというキュレーションに基づいて構成された展覧会。東京国立近代美術館からの巡回。

テーマとなった一つ、「現実と非現実のあわい」では不思議な3つの作品が並ぶ。マグリットの絵には山高帽の男がときどき登場するが、ここでは彼の背中にボッティチェリの代表作の一つ《春》(1482年頃、ウフィッツィ美術館蔵)の花の女神、フローラが重なっている。
ブローネルはアンリ・ルソーの《蛇使いの女》(1907年、オルセー美術館蔵)を写しつつ、傍に自ら生み出した「コングロメロス」という巨大な頭部と2つの身体、6本の腕を持つ生き物(?)を描いている。有元利夫の描いた女性は見たことのある古典絵画からの引用にも見えてきたりする。

ルネ・マグリット 《レディ・メイドの花束》 1957年 大阪中之島美術館蔵(トリオ<現実と非現実のあわい>より)

ヴィクトル・ブローネル 《ペレル通り2番地2の出会い》 1946年 パリ市立近代美術館蔵 photo: Paris Musées/Musée d’Art Moderne de Paris(トリオ<現実と非現実のあわい>より)

有元利夫 《室内楽》 1980年 東京国立近代美術館蔵(トリオ<現実と非現実のあわい>より)

他のテーマとしては、女性(3点のうち2点はヌード)が堂々と、というかそれぞれ不敵な笑みを湛えて寝そべる絵を集めた「モデルたちのパワー」がある。モディリアーニ、マティス、萬鉄五郎の絵だ。ほかにも「空想の庭」と題して、画面を植物が覆う絵。描いた画家が皆、植物に縁がある画家たちだ。さらに各美術館の草創期のコレクションには、偶然にも椅子に座る人物の絵があったりする。

一つのテーマで3点ずつの絵。それを見ながら、テーマに頷いたり、新鮮な組み合わせに驚いたり。しかし、3つの組み合わせのうちの1点と見なくてもいい。1点1点で見ていってもいい。そこはさすがこの3館からの作品。名作揃いなのである。

開館3周年記念特別展 TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション
会期|2024年9月14日(土) – 12月8日(日)
会場|大阪中之島美術館 4階展示室
開場時間|10:00 – 17:00[入場は閉場の30分前まで]
休館日|月曜日 [ただし10/14, 11/4は開館。翌日火曜日休館]
■会期中展示替えあり
■萬鉄五郎《裸体美人》(重要文化財)の展示は11/22(金)まで

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小山登美夫