滝沢 朝子 さん(グロッセ・ジャパン株式会社 副社長)
「自然に触れ合うと、感謝することの大切さを思い出させてくれる。
私が描いた作品で皆さんの心をチャージしてもらえたら嬉しいです。」
大いなる力に包まれて
私は新潟県の小千谷市で生まれ、高校までそこで過ごしました。よく驚かれるのですが、三仏生水天宮という神社の娘なので、今でも時々実家に戻り、宮司として祭事を行ったりもしています。付け加えると、大学はキリスト教系で学んだこともあって、就職試験の時など「どうして?なんで?神社の娘なのに」とよく聞かれましたね。
でも私自身も父も、その点については違和感を持っていなかったのです。だって神道では「八百万の神」という考えから、すべてを神としてあがめ、外来の様々な神もまた受け入れてきていましたから。まさに日本人の信仰心の広さは、そんな器の広さともいえると思います。また自然崇拝の心が日本人の卓越した美意識にもつながっているのだと思います。山や川、木々・岩などの自然に心を動かされて、手を合わせて感謝することで力を与えてもらっているのです。もしかするとそのような環境で育ったということが、今の私に影響を与えているのかもしれません。
叶えてこそ夢
大学卒業後はHBC北海道放送で、幼少時代からの夢だったアナウンサーとして仕事を始めました。今の私の制作拠点のひとつである北見の支局には入社4年を過ぎた頃に異動したのですが、これもまたご縁なのかな、と感じています。その地にいる時に今のパートナーに出会ったのですから。
絵を描き始めたのもこの頃です。知人に勧められたこともありますが、実は会社の借り上げ社宅が想像以上に広かったのです。家が狭いとなかなかできない油絵を、この広さならできると始めました。加えて描きたい自然の世界が北見には四方八方にあって、被写体には困りませんでした。私にどんどんイマジネーションや ”ひらめき” をくれる自然がある。このことはいま振り返ってみても、私にとって価値あることだったと思います。
その後、40歳になって現職のグロッセでの仕事にチャレンジすることになったのですが、もうひとつの夢だったデザイナーっていう仕事もこのタイミングで叶えることができました。私が欲しいと思うジュエリーのデザイン画をグローバルに提案させてもらって、一部ではありますが、例えばグロッセのベストセラー「バーティカル・ミス」シリーズなどに採用してもらっているのです。こうして結果的に、幼少時代からの夢を叶えることになりましたが、「夢は叶えてこその夢」だと常日頃感じていたので、本当に幸せであると思っています。
ひらめきが与えてくれる何か
個人としてのアート活動としては、これまでも一年に一枚は何かしら描いていました。これが不思議なもので、忙しい日々だったから一枚だけかというと、そうでもないのです。”ひらめき” とかイマジネーションが湧き上がってくる感覚って、自分の日々と相関があるのかというと全く違っていて、だから一年に一枚って決めていたわけでもなく、なんとなく一枚。できる時にはパッと描けるけど、浮かんでこない時は時間がかかる。
この ”ひらめき” の感覚は、ビジネスでも一緒です。もちろん仕事として計数チェックしなければいけない事柄は当然ありますから、それはおそらく私自身が左脳を使っている時だと思いますが、それ以外のこと、会社の経営方針とか進むべき道とか、こういうイベントを組んでお客様に喜んでいただけたらいいかしらとかということは、おそらく右脳を使って映像化して考えているのだと思うのです。例えば具体的にいうと、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を考える時は、この季節だとお客様がこんな風な雰囲気で立ち止まってジュエリーを見てくださって、だからジュエリーはこんな順番で並べるのがいいのかしら、などと映像としてシミュレーションをしています。そしてある瞬間に、これなら上手くいくっていう感じの ”ひらめき” を感じるようになるのです。
この ”ひらめき” をスピリチュアルという方もいるし、中にはそれをネガティブに感じる方もいるかもしれませんが、これまで人間がやってきた仕事が ITにとって変わられてきていると認めざるを得ない今、そういう感覚的な仕事、例えばどう企画するかとか、どんなデザインにするか、どう成功するかといったことをビジュアライズする右脳的な人間の能力がより注力される時代がまもなく、いえもうすでにやってきているのだと思います。だから ”ひらめく” っていうことは、ビジネスでだってアートでだって大切なのではないでしょうか。
ビジネスとアートの境界線はありません
スマートフォンの世界に住んでいるのが今の若い世代なのではないかと感じています。それでも私はあえて「自然と触れる」ということを、私のチームのメンバーやこれからを生きる人たちに大切にしてもらいたいなって思うのです。ふと都会で暮らしていると自然を支配しているような気持ちになることもあるでしょう。だけど、自然がいっぱいの場に身を任せると自分がとてもちっぽけなものに感じる。そういう大いなる力に身を預けるということをぜひ経験してもらいたいと思っています。それこそ五感をフル稼働させて。
私がアートとして描いているテーマもそうですが、ビジネスとしての考えもそこに通じています。自分が ”お山の大将” になるのではなくて、こうして自然や人、環境に生かされているのだということを感じられたら、そこから感謝の気持ちが出てきますよね。そして感謝の気持ちを素直に表現して「嬉しい、楽しい、ありがとう」って言葉を発していくと空気感が良くなってくる。これはビジネス上でのお客様でも、アートで表現した時に作品を観てくれる方に対してでも同じです。
少し話が変わりますが、グロッセでは各店舗との会議で「うまくいったことを共有」してもらうようにしています。これは回を重ねるごとに、店舗リーダー含めて意気揚々として参加してくれるモチベーションに繋がっていると実感しています。そしてそれが自然に他店舗へも派生していくのです。まさに「幸せの循環」、本当に嬉しい連鎖と思っています。すごい、素晴らしい、立派!そんな心からの誉め言葉を浴びていたら、幸せを感じながら働くことができるのではないでしょうか。魂を磨く場をつくるというと大袈裟に聞こえるかもしれないのですが、そもそも素晴らしい存在である一人一人にそんな成長の場を届けたいと思っています。
魂を磨く、才能を磨く、美的意識を磨く
さまざまな価値観を持つ人がいて、個性があります。人それぞれ色々あるけど、みんなダイヤモンドの原石です。それを昨今だと多様性というのかもしれませんが、あえて私がお伝えしたいのは、まずは生まれてきた自分を肯定して自分自身を磨いてほしい、ということです。誰かと比較してではなくて、自分自身が最高な自分になることを目指してほしいのです。魂を磨く、才能を磨く、美意識を磨く、ピカピカに自分を磨いてほしいですね。
素晴らしいあなたが自分をどう磨いていくかのお手伝いをします
「どう思っているの?」「どうしたいと思う?」など、定例の1on1でスタッフによくこう尋ねます。そうして導かれた言葉に真実があると感じているからです。それは本人にとっては無意識にあるセッションかもしれませんが、こういう時に自分自身が意識せずに見つけた言葉は本当に大切なのです。人間はたくさんある思いを言葉にすることで自分が何を考えているのか初めて明確にわかったりします。何故ならその言葉を発した人は、言語化することで自分の内なる思いに寄り添えるからだと思います。まさに自己表現することの意味、意義ではないでしょうか。
心の整理は、描いてもいい、書いてもいい、時には恥をかいてでも ”いい” んです。そうして見えてきた自分を、私は大切に思い、自分で抱きしめてあげてほしいと思います。
個展について
そんな自己表現のひとつが私の場合、描くということだったりします。20代から始めたアート活動ですが、北見市で生活している時に出会った「スプレーアート」という手法を使った作品を今回30点ほど展示いたします。自然が与えてくれたものや、多くの方々との触れ合いの中で感じている温もりを、皆様にも感じてもらえたら嬉しい限りです。
初めての方や若い方達には、ギャラリーに立ち寄るという行為自体にハードルの高さを感じると伺っていますが、ウインドウショッピングの気分でいらしてください。私もできる限り在廊しようと思っていますので、「あ、これいいな」って思った作品をぜひ教えてください。貴方に会えることを楽しみにしています。
滝沢朝子展 『Nature Sprite 〜自然が生み出す美』
4月8日(月)〜13日(土) 12時〜18時 会期中無休 / 最終日16時半まで
入場無料
ギャラリーゴトウ / Gallery Goto
〒104-0061 東京都中央区銀座1-7-5 銀座中央通りビル7階 / TEL:03-6410-8881
● インタビューを終えて…
とても素直に、やる気をいただけた気分になるチャーミングなインタビューの時間でした。アナウンサー経験があり、宮司であり、外資系企業の副社長であるというお立場でありながら、今回アーティストとして個展を開催されるということは、各々にどんな連鎖反応があるのだろうとお話を伺う機会をいただいたのですが、伺えば伺うほどすべての環境/立場において彼女の中では全く同一であり、繋がっている、自然であることにとても驚きを感じました。そして明確に理解できたのは、彼女のキーワードはネイチャー(自然)であること。今回の個展のテーマは「Nature Spirit- 自然が生み出す美」。私自身も彼女から、そして彼女が創り出した作品からエネルギーをチャージしたいと思っています。【M】